Yyatmita

第25話: 一期一会——出会いが人を変える

一期一会——出会いのタイミングは運。先輩の異動を前に、出会いの連鎖を受け取る

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花見のあと、先輩と会う頻度が少し減った。新規事業のプロジェクトが本格化して、こちらが忙しくなったのもある。でも理由はそれだけじゃない。先輩に相談しなくても、自分で判断できることが増えた。

嬉しいような、少し寂しいような。

ある金曜の夜、先輩からメッセージが来た。「来週の土曜、飯行かないか。話したいことがある」。

何だろう。気になったけれど、深く考えずに「行きます」と返した。

土曜の夕方、駅前の定食屋。先輩がもう座っていた。

「先輩、話したいことって何ですか?」

「まあ座れよ。飯食いながら話す」

焼き魚定食を2つ頼んで、先輩が切り出した。

「実はな、来月から本社に異動になった」

「え……」

「栄転ってやつだ。ありがたい話なんだけど、こっちにはもう来れなくなる」

箸を持ったまま、しばらく何も言えなかった。


出会いのタイミング

「師匠がさ、一般職向けの話で一期一会のことを書いてたんだよ」

「一期一会……」

「師匠は出会いのタイミングは運だって言ってた。自分で選べるもんじゃない。どんな人と、いつ、どこで出会うか。それは全部偶然だ。でもその偶然を活かせるかどうかは自分次第だって」

「……」

「お前が1年前、最初に俺に相談してきたとき。あのタイミングで相談してなかったら、俺は師匠の話をお前にしてなかった。お前が管理職になったタイミングと、俺がたまたま近くにいたタイミングが重なった。それはだ」

「先輩に相談したのは、本当にたまたまでした。誰にも言えなくて、先輩の顔が浮かんで……」

「それでいいんだよ。師匠も言ってた。大事な出会いってのは、あとから振り返って初めて気づくもんだって。そのときは、ただ目の前のことに必死なだけだ」


圧倒的に力が違う人

「師匠が面白いことを言っててさ。圧倒的に力が違う人との出会いが、自分を変えるって」

「圧倒的に力が違う人……。師匠のことですか」

「俺にとってはそうだった。師匠に出会う前の俺は、管理職としてどうしようもなかった。自己流でやって、部下に嫌われて、数字も出なかった。でも師匠と一緒に仕事するようになって、全部が変わった。見えてる景色が違う人のそばにいると、自分の景色も変わるんだ」

「先輩が僕にとってのそれだったんだと思います」

先輩が少し照れたように味噌汁をすすった。

「俺は師匠ほどじゃないけどな。でも師匠はこうも言ってた。圧倒的に力が違う人に出会うためには、自分が一生懸命に仕事をしてないとダメだって。いい加減にやってる人間のところには、いい出会いは来ない。一生懸命にやってるから、一生懸命な人が寄ってくる

「……」

「お前が最初に俺に相談してきたとき、俺が話を聞いてやろうと思ったのは、お前が本気で悩んでたからだよ。適当に愚痴りたいだけだったら、師匠の話はしなかった」


一期一会の意味

「先輩、一期一会って、もう会えないって意味ですか……?」

「バカ。異動するだけで死ぬわけじゃないだろ」

先輩が笑った。

「一期一会ってのは二度と会えないって意味じゃないんだ。今この瞬間の出会いを大切にしろって意味だ。師匠は目の前にいる人を大事にしろ。その人から学べることを、今のうちに全部学べって言ってた」

「今のうちに……」

「俺は師匠から学べるだけ学んだと思ってる。でももっと聞いておけばよかったって思うことも、いくらでもある。だからお前にはなるべく全部伝えておこうと思って、この1年いろいろ話したんだ」

先輩がまっすぐこっちを見た。

「で、今度はお前の番だ。お前が師匠の話を聞いて、自分で実践して、自分のものにした。それをいつか、お前の部下に伝えていけ。一期一会ってのはそういう連鎖なんだよ。師匠から俺へ、俺からお前へ、お前から次の誰かへ」


定食屋を出て、駅まで歩いた。

「先輩、1年間ありがとうございました」

「何だよ改まって。電話はできるだろ。困ったら連絡しろ」

「はい」

「あとな。お前、もう大丈夫だよ。この1年で自分で考えて、自分で動ける管理職になった。俺がいなくても回る。自信持て」

先輩が手を挙げて、改札に向かった。

背中を見送りながら、思った。1年前、途方に暮れて先輩に電話した夜。あのとき先輩が出てくれなかったら、今の自分はいなかった。

出会いは運だ。でもその運を活かせたのは、自分が必死だったからだ。

次は自分が、誰かにとっての「あの出会い」になる番だ。