第24話: 人生楽しまなくちゃ——仕事もプライベートも
人生楽しまなくちゃ。仕事もプライベートも充実していることが、全ての土台になる
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新規事業のプロジェクトが動き始めた。まだ手探りだけど、チーム全体で取り組んでいる。部下たちが自分で考え、提案し、動いてくれている。1年前には想像もできなかった光景だ。
ある日の夕方、珍しく定時で仕事が終わった。部下たちも帰った。自分もさっさと帰ろうと思ったのに、なぜか席を立てなかった。
何だろう、この感覚。
忙しい。大変だ。でも——楽しい、のかもしれない。
週末、先輩と花見に行った。先輩の家族も一緒だ。先輩の子どもが桜の花びらを集めている。ビールを開けながら、ぼんやり空を見た。
「先輩、最近ちょっと思うことがあって」
「おう」
「仕事って、楽しんでいいもんなんですかね」
先輩がビールを吹きそうになった。
「何だよ急に。いいに決まってるだろ」
「いや、管理職って大変じゃないですか。責任も重いし、部下のことも考えなきゃいけないし。楽しいって言ったら不謹慎かなって……」
「お前、師匠が一般職向けに書いた話があるんだけどさ。管理職の話とは少し違う角度なんだけど、土台になる話なんだ」
楽しんでいる状態
「師匠は人生楽しまなくちゃ。仕事もプライベートもって言ってた。管理職向けの話の合間にな。で、これが管理職の話の一番外側にある哲学なんだよ」
「哲学……」
「師匠が言う楽しむってのは、遊ぶとか、ふざけるとかじゃないんだ。充実してる状態のことだ。自分がやってることに手応えがある。成長してる実感がある。周りの人と一緒に何かを作ってる感覚がある。それが師匠の言う楽しんでいる状態だ」
「充実してる状態……」
「お前、さっき楽しいのかもしれないって言っただろ。それだよ。1年前のお前は時間がない、余裕がない、部下にどう接していいかわからないって言ってた。今は違う。大変だけど、手応えがある。部下が成長してる。チームが動いてる。それが楽しいってことだ」
楽しくない仕事は続かない
「でも先輩、楽しくない仕事もあるじゃないですか。全部が全部楽しいわけじゃないし……」
「当たり前だ。師匠だって仕事の全部が楽しいわけじゃないって言ってた。面倒なこともある。理不尽なこともある。胃が痛いこともある。でも全体として見たときに、楽しいと思えるかどうかが大事なんだって」
先輩が桜を見上げた。
「師匠はこう言ってた。楽しくない仕事は続かない。続かない仕事は成果が出ない。成果が出ない仕事はもっと楽しくなくなる。悪循環だって。逆に、楽しいと思えたら頑張れる。頑張れたら成果が出る。成果が出たらもっと楽しくなる。好循環だ」
「信頼の話のときにも好循環って出ましたね」
「そうだ。師匠の話は全部、悪循環を断ち切って好循環をつくる話なんだよ。笑顔も、挨拶も、教育も、全部そうだ。で、その好循環の一番根っこにあるのが楽しむって姿勢なんだ」
プライベートも
「師匠がプライベートもって付け足してたのが面白くてさ」
「プライベートも楽しめってことですか?」
「そう。師匠は仕事だけの人間になるなって言ってた。仕事が充実してても、プライベートがボロボロだったら長続きしない。家族との時間、趣味の時間、何もしない時間。それがあるから仕事にも全力で向かえるんだって」
先輩の子どもが走ってきて「パパ、お花あげる」と花びらを差し出した。先輩が「ありがとう」と受け取った。
「俺もさ、管理職になりたての頃は仕事ばっかりだったんだよ。休みの日も仕事のこと考えてた。でも師匠にお前、最近つまらない顔してるぞって言われて。仕事以外の時間を大事にしろ。そうじゃないと、お前の笑顔は作り物になるって」
「笑顔の話……」
「管理職の笑顔は部署の天気だって言っただろ。その笑顔が本物であるためには、お前自身が充実してないとダメなんだ。仕事だけで充実するのは限界がある。プライベートの充実が、仕事の笑顔をつくるんだよ」
花見の帰り道、先輩と並んで歩いた。先輩の子どもが前を走っている。
「先輩」
「ん?」
「管理職になって1年、大変でした。でも——楽しかったです」
「……そうか」
先輩が少し黙って、それからこう言った。
「師匠に同じことを言ったことがある。そしたら師匠、すごく嬉しそうな顔してそれが聞きたかったって言ったんだよ」
桜が風に舞った。
1年前、時間がない、余裕がないと言っていた自分。今も余裕があるとは言えない。でも、仕事が楽しいと思えるようになった。部下の成長が嬉しい。チームで何かを作り上げる手応えがある。
楽しむことは、不謹慎じゃない。楽しむことが、全ての土台だ。