Yyatmita

第23話: 難しい仕事をやって当たり前——チャレンジの先にあるもの

管理職なんだから難しい仕事をやって当たり前。チャレンジの先にしか成長はない

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「困ったらすぐ言って」を伝えてから、○○さんとのやり取りが変わった。週に一度のチェックポイントで進捗を確認する。それ以外は口を出さない。でも目は離さない。○○さんの表情を見て、困っていそうなら声をかける。

任せて、任せず。まだぎこちないけれど、少しずつ形になってきた気がする。

そんなある日、上司に呼ばれた。

「来期、新規事業の立ち上げプロジェクトがあるんだ。お前のチームに任せたい」

新規事業。今までやったことがない。チームの誰も経験がない。正直に言えば、怖かった。

「あの……うちのチームでできるかどうか、自信がないんですが」

「だから任せるんだよ」

上司はそう言って笑った。意味がわからなかった。

その夜、先輩に電話した。

「先輩、新規事業を任されたんですけど、正直きつくて……。経験もないし、失敗したらチームに迷惑かかるし」

「お前、管理職になってどれくらいだ?」

「もうすぐ1年です」

「1年か。じゃあちょうどいい。師匠が一番熱く語ってた話をするよ」


管理職なんだから当たり前

「師匠はこう言ってた。管理職なんだから難しい仕事をやって当たり前だって」

「当たり前って言われても……」

「お前、プレーヤー時代を思い出してみろ。慣れた仕事を毎日こなしてたとき、成長してる実感あったか?」

「……なかったです」

「だろ。師匠は人は難しい仕事をやったときだけ成長するって言ってた。簡単な仕事は処理できる。でも処理してるだけだ。難しい仕事に挑んで、悩んで、工夫して、なんとかやり切る。その過程でしか人は伸びない

「それは部下の育成の話じゃなくて……」

管理職自身の話だよ。お前だってまだ成長途中だろ。部下を育てるのと同じで、お前自身も難しい仕事をやらないと成長しない。上司がお前に新規事業を振ったのは、お前を育てようとしてるんだ」

「あ……。自分が上司に育成されてるってことですか」

「そういうことだ。管理職だって誰かに育てられてるんだよ」


チャレンジと無謀は違う

「でも先輩、経験がないことに手を出して失敗したら——」

「失敗を怖がるのは当然だ。でも師匠はチャレンジと無謀は違うって言ってた」

「違いは何ですか?」

「無謀は何も考えずに突っ込むことだ。チャレンジはリスクを把握した上で、準備して臨むこと。お前が『経験がない、怖い』と思ってる時点で、リスクは見えてる。見えてるなら対策ができる」

「対策……」

「経験がないなら、経験がある人に聞け。謙虚さの話を覚えてるか。知らないことは知らないと言って、助けを求めろ。チーム全員が未経験なら、外部の知見を入れろ。教育の話でやっただろ。自分が教えられないなら、教えられる人につなげる。同じことだ」

「全部、今まで学んだことの応用ですね……」

「そうだよ。お前がこの1年で積んできたものが、全部ここで試されるんだ」


達成の喜び

「師匠がもう一つ言ってたことがあるんだ。難しい仕事をやり切ったあとの達成感は、簡単な仕事の100倍だって」

「100倍……」

「大げさに聞こえるだろ。でもな、俺も経験がある。師匠の下で初めて大きなプロジェクトを任されたとき、毎日胃が痛かった。何度も逃げたくなった。でもなんとかやり切って、結果が出たとき——あの瞬間は忘れない。自分はここまでできるんだって初めて思えた」

先輩の声が少し柔らかくなった。

「で、もっと大事なことがある。お前がチャレンジしてる姿を、部下が見てるんだ。管理職が難しい仕事から逃げたら、部下も逃げるようになる。管理職が挑戦してたら、部下も挑戦するようになる。率先垂範の話だよ。やってみせだ」

「山本五十六……」

「お前が新規事業に本気で取り組む姿を見せることが、部下にとって一番の教育になる。言葉で『チャレンジしろ』って言うより、自分がチャレンジしてる背中を見せるほうがずっと伝わるんだ」


電話を切ったあと、少し考えた。

怖いのは変わらない。でも、逃げないと決めた。信頼の話のとき、「逃げないこと」が信頼の条件の一つだと聞いた。約束を守ること、嘘をつかないこと、逃げないこと。

翌朝、上司のところに行った。

「新規事業の件、やらせてください。ただ、経験がないので、他部署の方や外部の方にも協力を仰ぎたいんですが、いいですか」

上司がうなずいた。「最初からそう言えるのは、成長したな」。

チームに戻って、部下たちに伝えた。

「来期、新規事業をうちのチームで立ち上げることになった。正直、自分も初めてのことだらけで不安もある。でも一緒にやっていきたい。わからないことはわからないと言うから、みんなも遠慮しないで言ってほしい」

部下たちの顔が引き締まった。でも、嫌な緊張じゃなかった。

難しい仕事は、怖い。でもその先にしか、成長はない。

管理職も、まだまだ成長途中だ。