Yyatmita

第19話: 女性はすごい——見えない力を引き出す

目立たない部下の見えない力を引き出す。潜在能力を引っ張り出すのが管理職の仕事

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机の上を片付けてから、仕事の回り方が変わった。何がどこにあるかわかる。部下の報告書をすぐ読めるようになった。「すぐ見るよ」と言えるようになった。整理整頓は情報処理力——師匠の言葉は、やってみると全部本当だ。

さて、そろそろ育成フェーズに入る。

上司に出した育成計画の中間レビューがあった。3人の部下それぞれに「1年後の姿」と「今年経験させること」を書いたやつだ。上司に見せたら、こう言われた。

「○○さんにはもう少し大きい仕事を任せてもいいんじゃないか」

○○さん——チームで一番地味に、でも確実に仕事をこなしている部下だ。女性で、入社5年目。派手な提案はしないけれど、頼んだ仕事は必ず期限通りに上がってくる。ミスも少ない。

正直に言うと、育成計画で一番悩んだのがこの部下だった。何を経験させればいいのか、イメージが湧かなかった。

週末、先輩と久しぶりに居酒屋。

「先輩、部下の育成計画で悩んでて。1人、すごく安定してる部下がいるんですけど、次に何を任せればいいのかわからなくて……」

「どういうタイプだ?」

「えっと……地味だけど確実。頼んだことは絶対にやってくれる。でも自分からガンガン提案してくるタイプじゃなくて」

先輩がビールを置いた。

「師匠がさ、面白いことを言ってたんだよ。女性はすごいヨって」

「……先輩、それ今の時代にそのまま言ったら怒られません?」

「だろうな。でもまず師匠が何を言いたかったか聞けよ」


変化に敏感、試してみる感度

「師匠はこう言ってたんだ。職場で、変化に一番敏感なのは女性だったって。新しいやり方を提案したとき、最初に試してみるのも女性が多かった。試してみる感度が抜群だって」

「それって、女性だからとかじゃなくて、たまたまその人たちがそうだっただけじゃ……」

「そう思うだろ。俺も最初はそう思った。でも師匠の話を聞いていくと、ちょっと違う角度が見えてくるんだ」

先輩が少し声を落とした。

「師匠の時代はさ、今よりもっと女性が活躍しにくい職場だったんだよ。管理職はほぼ全員男。会議で発言しても流される。提案しても『まあ、そういう意見もあるね』で終わる。そういう環境で、それでも変化に敏感に反応して、新しいことを試してみる。師匠はそこにすごいって感じたんだ」

「環境が不利なのに、それでも動ける……」

「そう。師匠が言いたかったのは女性はこういう特徴があるって話じゃないんだ。管理職が見落としている力があるって話なんだよ。で、師匠の時代は特に、女性の力が見落とされていた」


潜在能力を引っ張り出す

「師匠はもう一つ言ってた。潜在能力を引っ張り出すのが管理職の仕事だって。で、潜在能力が一番埋もれやすいのが、目立たない人なんだ」

「目立たない人……」

「声が大きい部下は、放っておいても目立つ。提案もするし、主張もする。管理職はそういう部下に注目しがちだ。でも静かに確実に仕事をしてる部下のほうが、実は伸びしろが大きいことがある。師匠はそういう部下を見つけるのがうまかった」

「あ……。自分の部下、まさにそのタイプです」

「だろ。お前、その部下に今の仕事の範囲を超える何かを任せたことあるか?」

「……ないです。安定してるから、今の仕事をそのまま続けてもらおうって」

「それが管理職の思い込みだ。安定してるから安定した仕事を与える。それは部下のためじゃなくて、お前が楽だからだ。安定してる部下こそ、新しい仕事を任せる余力があるんだよ」

「あ……」

「師匠はできる部下に楽な仕事をさせるな。できる部下にこそ難しい仕事を渡せって言ってた。で、渡すときに大事なのはお前ならできると思うって一言添えること。その一言が潜在能力のスイッチを入れるんだ」


見えない力を見る

「先輩、さっきの師匠の話に戻るんですけど。女性がすごいって言ったのは、つまり管理職の側が見えてなかったってことですよね」

「そうだ。師匠は自分の反省として言ってたんだよ。俺は長いこと、目の前にある力を見逃してたって。声が大きい部下、目立つ部下にばかり目が行って、静かに支えてる人たちの力を引き出せてなかった。それに気づいたのが女性の部下がきっかけだったって」

「……」

「今の時代、性別だけの話じゃないよな。年齢が若いから、経験が浅いから、口数が少ないから——そういうラベルで部下の可能性を狭めてないか。前に評価の話をしたとき、固定的な評価はダメだって言っただろ。同じことだ」

「評価の眼の話……。全部つながるんですね」

「師匠の言葉は全部つながってるんだよ。部下を観る、固定的な評価をしない、潜在能力を引き出す。見えない力を見るのが管理職の仕事だ。見えないのは、力がないからじゃない。お前の眼がそこに向いてないからだ」


月曜日、あの部下を呼んだ。

「来月の新規案件の窓口、やってみない?」

部下が目を丸くした。今まで窓口業務は別の部下がやっていた。

「正直、不安はあります……」

「大丈夫。○○さんが今までやってきた仕事を見てて思ったんだ。確実にやり切る力がある。その力は窓口でも絶対に活きる」

部下が少し黙って、それから「やってみます」と言った。

——試してみる感度。師匠が言っていたのは、これのことだったのかもしれない。

管理職が機会を渡せば、人は動く。見えない力は、見ようとしなければ見えない。