第17話: 場をつくる——飲み会は管理職の仕事
飲み会は管理職の仕事——ではなく、業務外のコミュニケーションの場を意識的につくること
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5W1Hを意識して指示を出すようになったら、部下の「これってどうすればいいですか?」が減った。指示が的確なら部下は迷わない。迷わなければ手戻りも減る。当たり前のことだけど、やってみると効果が大きかった。
ある金曜日、上司に声をかけられた。
「今日、チームで飲みに行かないか。俺もおごるからさ」
断る理由はなかった。でも部下たちの顔を見たら、微妙な空気だった。1人は「あ、今日はちょっと……」と言いかけて、上司の顔を見てやめた。結局、全員参加した。
居酒屋では上司がよく喋り、部下たちは相槌を打っていた。2時間後、店を出たとき、部下の1人が小さくため息をついた。聞こえないふりをした。
翌週、先輩とランチ。
「先輩、飲み会ってどうなんですかね……。上司に誘われて行ったんですけど、部下が楽しそうじゃなくて」
先輩がにやっと笑った。
「それ、師匠の得意分野だったんだよな」
飲み会は管理職の仕事
「師匠は飲み会は管理職にとって絶好のコミュニケーションの場だって言ってた。翌日からの仕事に役立つって」
「……正直、今の時代にそれ言われても。若い人は飲み会嫌がりますよ」
「わかってるよ。俺も最初そう思った。でも師匠が言いたかったのは、飲み会に行けって話じゃないんだ。業務の場では出てこない話ができる場を、管理職が意識的につくれって話なんだよ」
「業務の場では出てこない話……」
「お前のチーム、朝会と業務中の会話だけで、部下の本音が全部わかるか?」
「……わからないです」
「だろ。業務中は業務の話しかしない。でも部下が本当に困ってること、将来やりたいこと、チームへの不満——そういうのは業務の合間には出てこない。業務外の場があって初めて出てくるんだ」
場の本質は「上下関係を薄める」
「でも先輩、さっきの飲み会がまさにそうだったんですけど、上司が一方的に喋って部下は聞いてるだけで。あれじゃ本音なんか出ないですよ」
「そりゃそうだ。場をつくると場を支配するは違う。師匠が言ってたのは、飲み会で自分が喋れって話じゃない。部下が喋れる空気をつくれって話だ」
先輩が味噌汁を置いた。
「師匠の飲み会はさ、師匠が一番聞き役だったんだよ。若手に『最近どう?』って振って、あとは黙って聞いてた。たまに笑って、たまにうなずいて。で、帰りがけに『今日はいい話聞けたよ、ありがとう』って言うんだ。あの人の飲み会に行くと、みんな自分の話を聞いてもらえたって感じて帰ってきた」
「聞き役……」
「場の本質は上下関係を薄めることだ。業務中は上司と部下。でも場を変えれば、少しだけフラットになれる。そのフラットな空間で、部下が普段言えないことを言える。それが翌日からの仕事に効くんだよ」
飲み会じゃなくてもいい
「先輩、でもやっぱり飲み会って……。飲めない人もいるし、夜の時間を取られるのが嫌な人もいるじゃないですか。子育て中とか、介護とかで」
「そこだよ。師匠の時代は飲み会が一番手軽な場だった。でも手段は時代に合わせていい。大事なのは飲み会じゃなくて、業務外のコミュニケーションの場があるかどうかだ」
「ランチとか、ですか」
「ランチでもいい。15分のコーヒーブレイクでもいい。月に一回、会議室で雑談タイムを設けてもいい。師匠が言いたかったのは酒を飲めじゃなくて、仕事の話だけで終わるなってことなんだ」
先輩が指を立てた。
「ポイントは3つ。強制しない、自分が聞き役になる、業務の延長にしない。この3つを守れば、形は何でもいい。飲み会でもランチでも散歩でも。逆にこの3つを破ったら、飲み会だろうがランチだろうが、部下は本音を言わない」
強制の飲み会が壊すもの
「先輩、それで言うと……先週の飲み会って、上司が良かれと思ってやったんですよね。でも部下は断れない空気で、上司が喋って終わった。あれ、逆効果ですよね……」
「そうだな。強制の飲み会は信頼を削る。師匠も言ってた。部下が行きたくない飲み会を開いて満足してるのは管理職だけだって」
「きつい言葉ですね……」
「きついけど本当のことだろ。お前の上司は悪い人じゃないと思うよ。でもな、自分が楽しいから部下も楽しいはずってのは、管理職の勘違いなんだ。前に話した勘違いの話と同じ構造だよ」
「あ……自分の感覚を部下に押しつけてる……」
「そういうことだ。場をつくるのは管理職の仕事だ。でも部下がその場を心地よいと思うかどうかを考えるのも管理職の仕事だ。自分のための場じゃなくて、部下のための場をつくれ」
翌週、試してみた。金曜の午後、仕事が一段落したタイミングで「コーヒーでも買いに行かない?」と部下に声をかけた。全員じゃなくて、最近元気がなさそうだった1人に。
コンビニまでの往復、15分。仕事の話はしなかった。最近見た映画の話をしたら、その部下が急に饒舌になった。帰り際に「実は最近、ちょっと悩んでることがあって」とぽつりと言った。
「聞くよ」
部下が話し始めた。業務の場では絶対に出てこなかった話だった。
15分。飲み会じゃなくても、場はつくれる。