第15話: 情報伝達をしっかりやる——伝えたと伝わったは違う
伝えたと伝わったは全然違う。聞き手の粗相は言い手の粗相という師匠の教え
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朝のメールで、来月からの業務フローの変更を部下全員に送った。ちゃんと書いた。日付、変更点、理由、対応方法。抜け漏れはないはず。
3日後。部下の1人が、旧フローのまま作業していた。
「メール見てなかった?」
「あ、見ました。でも、自分のところは関係ないと思って……」
関係なくない。全員に影響がある話だ。メールにもそう書いたはずだった。読み返してみた。確かに書いてある。でも——全体的な説明が続いたあとに、3行目にさらっと「全員対象です」と書いてあるだけだった。
その夜、先輩に電話した。
「先輩、伝えたはずのことが伝わってなくて……」
「あー、それな。管理職あるあるだよ」
伝えたと伝わったは違う
「師匠がよく言ってたんだよ。伝えたと伝わったは全然違うって。お前は伝えた。でも伝わってなかった。伝わってないなら、伝えてないのと同じだって」
「でも、ちゃんと書きましたよ……」
「そこなんだよ。ちゃんと書いたってのは、お前の側の話だろ。受け取った側がどう読んだかは、別の話だ。師匠は聞き手の粗相(そそう)は言い手の粗相って言ってた」
「粗相……。聞き手がやらかしたのは、言い手のせいってことですか?」
「そういうことだ。相手が理解できなかったのは、伝え方が悪いんだよ。受け手のせいにするな。伝え手が工夫しろと」
「……」
「お前のメール、多分こうだろ。背景を丁寧に書いて、変更点を順番に並べて、最後に補足。きれいなメールだ。でも読む側は忙しい。全部は読まない。大事なことほど最初に書け。で、誰が対象で、何をすればいいかを先に言え。背景は後でいい」
タイミングと手段
「先輩、メールだけじゃダメですかね……」
「師匠は情報伝達は的確なタイミングで、適切な手段で、必要な人にって言ってた。3つのうち1つでも外すと伝わらない」
「3つ……」
「タイミング——フロー変更が来月なのに、3週間前に1回メールして終わりか? 忙しい時期に送ったら埋もれるだろ。直前にもう1回リマインドするとか、朝会で口頭で言うとか。1回で伝わると思うな」
先輩が続けた。
「手段——メールで済む話と、口頭じゃないとダメな話がある。事実の共有はメールでいい。でも判断が必要な話、感情が動く話は、顔を見て言え。異動の話をメールで済ますやつはいないだろ。でも業務フローの変更って、人によっては仕事のやり方が変わる大きな話だ。メールだけで済ませていい話か?」
「……口頭でも説明すべきでした」
「最後に相手——全員に同じメールを送って終わりにするな。全員に関係ある話でも、影響の大きさは人によって違う。一番影響を受ける人には個別に声をかけろ。『これ、○○さんの業務にも関わるから目を通しておいてね』の一言があるだけで全然違う」
報連相は部下だけの仕事じゃない
「先輩、報連相って部下がやるもんだと思ってたんですけど……」
「そこだよ。師匠は報連相は双方向だって言ってた。部下が上に報告・連絡・相談する。それは当然だ。でも上から下への報連相もある。管理職が部下に情報を伝えるのも報連相だ」
「上から下……」
「会社の方針が変わった。他部署の状況が変わった。上からの指示があった。それを部下に伝えるのは管理職の仕事だ。で、伝えないと部下は動けない。お前が情報を持ってるのに伝えなかったら、部下は暗闇で仕事してるのと同じだろ」
「前に聞いた、目隠しで走ってるのと同じ、ですか……」
「そう。笑顔の話のときに言っただろ。あのとき情報が来ない管理職の話をしたけど、逆もあるんだ。情報を出さない管理職のところでは、部下が判断を間違える。判断を間違えるのは部下のせいじゃない。情報を渡さなかった管理職のせいだ」
伝わったか確認しろ
「じゃあ、どうすればよかったんですかね……。今回のフロー変更の件」
「簡単だよ。伝わったか確認する。それだけだ」
「確認……」
「メールを送ったあと、朝会で一言言う。『メール見てくれた? 質問ある人いる?』。それだけでいい。あるいは、影響の大きい部下には個別に声をかける。『あのメールの件、わからないところない?』。師匠は1回目で伝わらなかったら2回目をやれ。2回目でもダメなら3回目だって言ってた」
「3回も……」
「大事なことほど何度も言え。しつこいくらいでちょうどいいって師匠は言ってた。お前が『また同じこと言ってる』と思われるくらいで、やっと全員に伝わるんだ」
先輩が少し笑った。
「俺もさ、最初は1回言えば伝わると思ってたんだよ。でも師匠にお前の話は3割しか伝わってないって言われてから、大事なことは必ず2回以上言うようにしたんだ。そしたら部下のミスが減ったよ。伝え方を変えただけで」
翌朝、朝会で改めてフロー変更の件を話した。メールの内容を繰り返すんじゃなくて、「誰が」「何を」「いつまでに」を先に言った。そのあと、一番影響を受ける部下に個別に声をかけた。
「昨日の朝会の件、わからないところない?」
「あ、実は1個聞きたいことがあって……」
質問が出た。聞かれなければ、きっとそのまま間違えていた。
伝えた、で終わりにしない。伝わったか、確認する。それだけで、こんなに違う。