Yyatmita

第6話: 固定的な評価をしない——好き嫌いで人を見ていないか

好き嫌いで人を評価していないか。固定的な評価が部下の可能性を閉じてしまう

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あの日の翌朝、出社してすぐ部下のところに行った。「昨日は言い方がきつかった、すまない」と伝えた。部下は少し驚いた顔をして、「いえ、自分が悪いんで……」と言ったけれど、その表情は昨日より少しだけ柔らかかった。

そのあと、「同じミスを防ぐにはどうしたらいいか、一緒に考えよう」と声をかけた。部下はぽつぽつと話し始めて、確認漏れの原因が「手順が曖昧だった」ことにあるとわかった。仕組みの問題だったのだ。本人の注意力の問題だと決めつけていた自分が恥ずかしくなった。

——で、その一件が落ち着いたあと、もう1つ、ずっと気になっていたことがある。

金曜の夜、久しぶりに先輩と居酒屋にいた。

「先輩、ちょっと聞きにくいことなんですけど……」

「なんだ、改まって」

「えっと……自分、部下に対して公平にできてるのかなって。3人いるんですけど、正直、やりやすい相手とやりにくい相手がいて」

先輩がジョッキを持つ手を止めた。

「いい質問だな。それに気づけてるだけマシだ」


好き嫌いの自覚

「師匠に、人事評価の相談をしたことがあるんだよ。そしたら開口一番こう言われた。お前、好き嫌いで評価してないだろうなって」

「好き嫌いって、さすがにそこまでは……」

「俺もそう思った。でも師匠に突っ込まれたんだ。報告がマメな部下と、無口な部下、同じ成果を出したとき同じ評価にできるか? って。正直、できてなかった」

「……あ」

「マメに報告してくる部下は、安心感がある。だから無意識に高く評価する。無口な部下は、何を考えてるかわからないから不安になる。だから低く見る。これが好き嫌いの正体だって師匠は言ってた。嫌いだから低く評価してるんじゃない。自分が安心できる相手を高く評価してしまうんだ」

刺さった。3人の部下のうち、自分が一番やりやすいと感じている相手は、報連相がマメな部下だった。やりにくいと感じているのは、口数の少ない部下。仕事の質で見たら、実はそこまで差はないのに。


固定された眼

「でも先輩、評価に多少の主観は入りますよね? 完全に客観的になんてできないんじゃ……」

「もちろんだ。完璧に客観的な評価なんてない。師匠もそれはわかってた。だから固定するなって言ってたんだ」

「固定?」

「一回『この人はこういうタイプだ』と決めたら、それ以降ずっとその眼で見てしまうことだ。第4話で話したラベルの話、覚えてるか? あれと同じだ。固定的な評価は人の可能性を閉じるんだよ」

先輩が焼き鳥を一本取って、串を回しながら続けた。

「師匠はフラットに観る柔軟な眼力を持てって言ってた。去年ダメだった奴が今年化けることもある。去年良かった奴が今年サボることもある。大事なのは今のこの人を観ることであって、前のこの人の記憶で判断することじゃない」


評価の基準を持つ

「じゃあ、どうすれば固定しないでいられるんですか? 気をつけるだけじゃ無理な気がして……」

「師匠に同じことを聞いたら、意外と実務的な答えが返ってきたんだ。基準を先に決めろって」

「基準……」

「人を見てから評価するんじゃなくて、評価の物差しを先に置いてから人を見る。たとえば、今月の評価基準は『納期を守れたか』『チームに貢献したか』『改善提案があったか』の3つ。それを先に決めておけば、好き嫌いが入り込む余地が減るだろ」

「あ……確かに。基準がないから、なんとなくの印象で判断しちゃうんですね」

「そういうことだ。師匠は基準なき評価はただの感想だって言ってた。感想で評価された部下はたまったもんじゃないからな」


苦手な部下ほど観る

「先輩、もう一つ聞いていいですか。やりにくい部下と、どう向き合えばいいんですかね……。苦手意識があると、つい距離を取っちゃうんです」

「それな。俺も同じだった。苦手な部下のことは無意識に避けるんだよ。報告も短く済ませたいし、雑談も減る。でもそれ、部下はわかってるからな」

「わかってる……ですか」

「当然だ。前にも言ったけど、部下はお前のことをよく観てる。自分だけ距離を置かれてるのを感じたら、その部下はどうなると思う?」

「……やる気をなくしますよね」

「だろ。だから師匠は苦手な相手ほど意識して観ろって言ってた。好きな部下は放っておいても目に入る。苦手な部下は意識しないと視界から消える。でも管理職の仕事は全員を観ることだ」

先輩がビールの最後の一口を飲んで、こう締めた。

「師匠はいつもこう言ってたよ。好き嫌いで人を見るのはもってのほかだ。でも人間だから好き嫌いはある。だったらせめて、自分の好き嫌いを知っておけって。知ってれば補正できる。知らなければ、ずっと歪んだ眼で人を見続けることになる」

帰り道、3人の部下の顔を思い浮かべた。自分は、誰の顔を一番長く見ていて、誰の顔を一番見ていないだろう。

答えは、すぐに出た。