第4話: 部下をちゃんと観る——表面的なことに眼を奪われるな
部下を「見る」のではなく「観る」。表面的なことに眼を奪われず、変化を拾う観察力を鍛える
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前回の面談の話を受けて、もう一度部下と話す場を作った。今度は聞くことから始めた。驚いたことに、部下は思っていた以上にいろいろ考えていた。こっちが一方的に話していただけだったのだ。
でもそこで、また別の問題に気づいた。
昼休み、社食で先輩と隣になった。
「先輩、ちょっと聞いてもいいですか」
「おう。飯食いながらでいいなら」
「えっと、最近部下のことで気になることがあって……。3人いるうちの1人が、最近あんまり元気がないんです。仕事はやってるんですけど、前みたいにこっちから聞く前に報告してくることが減って」
「で、どうした?」
「えっと……『最近元気ないけど大丈夫?』って聞きました。そしたら『大丈夫です』って」
「それで終わり?」
「……はい」
先輩が味噌汁を置いて、こっちを見た。
「お前、それ表面しか見てないぞ」
観察と想像
「師匠にさ、部下について報告したとき、こう返されたことがあるんだよ。お前はその部下を"見て"るのか、"観て"るのかって」
「見ると観るの違い……ですか?」
「そう。見るってのは目に入ること。観るってのは、その奥にあるものを想像することだ。師匠は部下をちゃんと観ないとダメだ、表面的なことに眼を奪われるなって何度も言ってた」
「奥にあるもの……」
「お前の部下が『大丈夫です』って言ったとき、本当に大丈夫だと思ったか?」
正直、大丈夫じゃないだろうなとは思っていた。でも「大丈夫です」と言われたら、それ以上踏み込めなかった。
「師匠がよく言ってたのは、部下にはいろんなタイプがいるってことだ。同じ『大丈夫です』でも、本当に大丈夫な奴と、大丈夫じゃないけど言えない奴がいる。それを見分けるのが管理職の仕事だって」
タイプを決めつけない
「でも、見分けるって言っても……。正直、3人いたら3人とも違うし、何を考えてるかなんてわからないです」
「わからなくて当然だ。師匠もわかった気になるのが一番危ないって言ってた。大事なのは、わからないことを前提にして観続けることだって」
先輩が箸で空中に丸を描いた。
「たとえばさ、お前の部下が3人いるとして。1人は報連相がマメ、1人は言われたことだけやるタイプ、1人はムードメーカー。こういうラベルを貼りたくなるだろ?」
「……はい。実際そう思ってます」
「それ自体は悪くない。でもそのラベルに縛られるなってのが師匠の教えだった。マメな奴がある日報告してこなかったら、それは変化のサインだ。でもラベルに縛られてると、たまたま忙しいんだろうで片づけてしまう。それが表面的なことに眼を奪われてる状態だ」
「あ……。報告が減った部下のことを、自分は『最近ちょっと元気がない人』としか見てなかったです」
「だろ。元気がないのは観察じゃなくて印象だ。観察ってのは、いつからか、何が変わったか、何がきっかけだったかを具体的に考えることだよ」
変化を拾う
「じゃあ、具体的にはどうやって観るんですか?」
「師匠がやってたのは、すごく地味なことだった。毎朝、部下の顔を見る。それだけ」
「顔を見るだけ……ですか?」
「そう。ただし、昨日と比べて何が違うかを考えながら見る。表情、声のトーン、姿勢、周りとの会話の量。毎日見てると、変化がわかるようになる。師匠は部下の表情を観れば、部署の状態がわかるって言ってた」
「毎日やるんですか」
「毎日だ。筋トレと同じで、観る力は鍛えないと育たない。最初は何も見えなくていい。1週間続けてみろ。なんとなく違うくらいの感覚が出てくるから。そのなんとなくが大事なんだ」
先輩はトレーを持って立ち上がりかけて、もう一つ付け足した。
「あとさ、師匠に言われて一番効いた言葉があるんだけど。部下はお前のことをよく観てるぞ。お前が部下を観てないこと、部下は知ってるぞって。あれは堪えたな」
「大丈夫です」の先
昼休みのあと、自分のデスクに戻って考えた。
あの部下は、いつから報告が減ったんだろう。先週? 先々週? 正直、はっきり思い出せない。毎日顔を合わせていたのに、変化に気づいていなかった。
先輩の師匠の言葉が刺さった。部下はお前のことをよく観てる。
夕方、その部下が帰り支度をしているところに声をかけた。「大丈夫?」ではなく、「最近、報告のタイミング変えた? 何か困ってることがあったら聞きたいんだけど」と。
部下は少し驚いた顔をしたあと、ぽつぽつと話し始めた。
全部を聞き終えたとき、思った。この人はずっとサインを出していたのだ。自分が観ていなかっただけで。