Yyatmita

第3話: 謙虚さと素直さ——一番大事かもしれない話

自分の評価と周りの評価のギャップ。謙虚さと素直さがビジネスパーソンとして一番大事かもしれないという話

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前回、先輩に「自己防衛」の話をされてから、自分の言い訳に敏感になった。「忙しかったから」と言いかけて、飲み込む。その代わりに「じゃあ次はどうする?」と自分に聞く。それだけで、少しだけ景色が変わった気がした。

でも、また新しい壁にぶつかった。

「先輩、最近ちょっと落ち込んでて……」

「おう、どうした」

「えっと……部下との面談があったんですけど、思ってたより手応えがなくて。こっちはちゃんと方針を伝えたつもりだったんですけど、なんか響いてない感じで……」

「お前、面談のあと部下に聞いたか? どう思った? って」

「……聞いてないです」

「だろうな」


自分の評価と周りの評価

「師匠にさ、昔こう言われたことがあるんだよ。お前が思ってる自分と、周りが見てるお前は別人だぞって」

「別人……ですか?」

「そう。俺も管理職になって半年くらいのとき、自分ではそこそこうまくやれてると思ってたんだよ。部下にも丁寧に接してるつもりだったし、仕事も回ってた。でもあるとき師匠に言われたんだ。お前、自分に点数つけるなら何点だ? って」

「先輩は何点って答えたんですか?」

「70点くらいですかねって言った。そしたら師匠が笑って、周りはたぶん50点もつけてないぞって」

「……それ、きつくないですか」

「きつかったよ。でもさ、師匠はこう続けたんだ。それが普通なんだ。自分の評価と周りの評価にはギャップがある。そのギャップに気づけるかどうかが分かれ目だって」


過信の怖さ

「でも、自信を持つのは大事ですよね? 自信がなかったら部下もついてこないんじゃ……」

「そこなんだよ。師匠が区別してたのは、自信と過信は違うってことだ。自信ってのは、自分にできることとできないことを知った上で持つもの。過信ってのは、できないことが見えてない状態だ」

先輩がビールを一口飲んで、少し声を落とした。

「俺が70点だと思ってた時期、実際には部下の話を最後まで聞いてなかったんだよ。途中で『あ、それはこうすればいい』って結論を言っちゃう。自分では的確に指導してるつもりだった。でも部下からすると、話を聞いてもらえない上司だった。それが師匠に言われた50点の中身だったんだよな」

思い当たることがあった。さっきの面談もそうだ。方針を「伝えた」とは思っていたけど、部下が何を考えているかを「聞いた」記憶がなかった。


素直さが扉を開く

「じゃあ、そのギャップに気づいたあと、先輩はどうしたんですか?」

「師匠に聞いた。俺、具体的にどこがダメですかって。これがさ、言うのは簡単だけど実際にはめちゃくちゃ難しいんだ。管理職って立場があるから、人にダメ出しを求めるのは勇気がいる」

「……確かに。部下に『自分のどこが悪い?』なんて聞けないです」

「だろ。でも師匠はこう言ってた。謙虚さと素直さは、ビジネスパーソンとして一番大事かもしれない。助言を求められる人間は伸びる、求められない人間はそこで止まるって」

「一番大事……」

「師匠が言う謙虚さってのは、卑屈になることじゃないんだよ。自分にはまだ見えていないことがあると認められること。そして素直さってのは、それを人に聞けること。この2つが揃って初めて、さっき言ったギャップが埋まり始めるんだ」


聞ける人と聞けない人

「でも、誰に聞けばいいんですかね……。上司に聞くのも、部下に聞くのも、なんか変な感じがして」

「それも師匠に聞いたことがある。答えはシンプルだった。誰でもいい、まず聞いてみろって。上司でも、同僚でも、部下でも。大事なのは誰に聞くかじゃなくて、聞く姿勢を持ってるかどうかだって」

先輩が枝豆をつまみながら続けた。

「俺が見てきた中で伸びた管理職は、みんな聞ける人だった。逆に止まった人は、聞けない人だった。能力の差じゃないんだよ。聞けるかどうか。それだけで5年後の差がとんでもないことになる」

「5年……」

「師匠の口癖でさ、早く気づいたもん勝ちだってのがあったんだけど、これも同じことなんだよ。自分に足りないものに気づくのが早ければ早いほど、手を打てる時間が長い。気づかないまま5年経ったら、5年分の癖がついてる。それを直すのは並大抵じゃない」


面談のやり直し

「先輩、さっきの面談の話に戻っていいですか? あれ、やり直したほうがいいですかね……」

「やり直すっていうか、もう一回話す場を作ればいい。今度はこっちが話すんじゃなくて、向こうの話を聞くつもりで」

「聞くだけ、ですか?」

「聞くだけでいい。方針を伝えるのはそのあとだ。師匠がよく言ってたんだよ。管理職は話すのが仕事じゃない、聞くのが仕事だって。お前が面談で手応えがなかったのは、たぶん一方通行だったからだよ」

それは、言われてみればその通りだった。面談の準備はした。伝えたいことは整理した。でも「聞きたいこと」は一つも用意していなかった。

先輩はビールを飲み干して、いつもの締めに入った。

「師匠はいつもこう言ってたよ。俺も全然できてないけどなって。でもあの人は、人に助言を求めることだけは絶対にやめなかった。偉くなっても、経験を積んでも、いつも誰かに聞いてた。それが師匠の言う謙虚さだったんだと思う」

帰り道、来週の面談のことを考えていた。今度は、聞くことから始めてみよう。