第2話: 自分がかわいい——自己防衛が成長を止める話
頑張っているのに成果が出ない。先輩から「自分がかわいいだけだ」と言われ、自己防衛のメカニズムに気づく
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前回、先輩に言われた通り、朝やることを書き出すようにした。2週間続けてみて、少しだけ1日の見通しが立つようになった。
でも、新しい問題が出てきた。
「先輩、最近ちょっと気になることがあって」
「おう、どうした」
「朝書き出すのはいいんですけど、終わらなかった仕事が毎日残るんです。で、翌日に持ち越して。それが積み重なって、結局また同じところに戻ってる気がして……」
「持ち越す理由は?」
「えっと、急な仕事が入ったりとか、部下の対応に時間取られたりとか……」
「それ、毎日言ってないか?」
ドキッとした。
「頑張ってる」の落とし穴
「師匠にさ、同じようなことを言ったことがあるんだよ。今日は急な案件が入って大変でした、でも遅くまで残って頑張りましたって。そしたらこう返された」
先輩が少し間を置いた。
「お前、自分がかわいいだけだろって」
「……え?」
「俺も最初は意味がわからなかった。こっちは毎日必死にやってるのに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだって。でもさ、師匠が言いたかったのはこういうことだったんだよ」
先輩が指を折りながら話し始めた。
「10時まで働いた、だから頑張ってる。忙しくて手が回らない、でも頑張ってる。急な仕事が入ったから大事な仕事は明日にした、それでも頑張ってる。——全部、自分を守る理由なんだよ。師匠はそれを自己防衛って呼んでた」
自己防衛のメカニズム
「自己防衛って、そんな大げさな話ですか? 単に忙しいだけだと思うんですけど……」
「そこが罠なんだ。自己防衛ってのは、自分でやってる自覚がないんだよ。頑張ってるのは本当なんだ。嘘じゃない。でも頑張ってるという事実が、できてないという事実を覆い隠すんだよ」
先輩はおしぼりで手を拭きながら続けた。
「師匠はこう言ってた。自分を守る言い訳を繰り返していると、いつの間にか成長が止まる。本人は気づかない。気づいたときには何年も経ってるって。これが一番怖いんだって」
何年も経ってる。その言葉が重かった。
「俺もさ、管理職になって最初の1年、ずっとそれやってたんだよ。今月の目標に届かなかったのは市場環境のせい。部下が育たないのは採用の問題。自分の仕事が終わらないのは会議が多すぎるから。全部、事実ではあるんだ。でも事実であることと、それを理由にしていいかは別の話なんだよな」
能力のなさを棚に上げない
「じゃあ、どうすればいいんですか? 忙しいのは事実なのに、それを言っちゃいけないんですか?」
「言っていい。ただ、そこで止まるなってことだ。忙しかった、で終わりにするな。忙しかった、じゃあ次はどうする? まで考えろって話」
先輩がビールを注文して、こう続けた。
「師匠が好きだった言い回しがあってさ。自分の未熟さを棚に上げるな、早く気づいたもん勝ちだって。つまり、できてない自分を認めるのが最初の一歩なんだよ。自己防衛ってのは、その一歩を踏み出させない仕組みなんだ」
「できてない自分を認める、ですか」
「そう。お前、持ち越しが毎日あるって言ったろ。それは忙しいからじゃなくて、見積もりが甘いか、断るべき仕事を断れてないか、そもそも自分がやるべきじゃない仕事をやってるか、どれかだ。そこを見ないで『忙しいから仕方ない』で片付けるのが自己防衛だよ」
痛いところを突かれた。確かに、毎日持ち越しがあるのに、やり方を変えようとしていなかった。「今日は仕方なかった」で毎日を終わらせていた。
自己防衛の見つけ方
「でも、自覚がないって言いましたよね? 自分では気づけないなら、どうやって見つけるんですか?」
「いい質問だな。師匠に聞いたとき、すごくシンプルな答えが返ってきた。同じ言い訳を2回使ったら、それは自己防衛だと思えって」
「2回?」
「そう。1回目は本当にそういう状況だったのかもしれない。でも2回目に同じことを言ってたら、それは状況の問題じゃなくて、自分が変わっていないってことだ」
思い返してみた。「急な仕事が入ったから」を何回言っただろう。5回? 10回? もはや数えられない。
「あと、もう1つ。前回と同じ結果が出たとき、前回と同じことを言ってる自分に気づけってのもあった。目標未達で『市場が厳しくて』と言うのは1回目はいい。2回目も同じことを言ってたら、市場の問題じゃなくてお前の問題だ、ってな」
成長が止まるとき
「先輩、正直に聞いていいですか? 自己防衛をやめたら、何が変わるんですか?」
「痛くなる」
先輩は即答した。
「自己防衛をやめるってことは、できてない自分をそのまま見るってことだ。これはきつい。でもさ、痛いところを見ないと、そこは治らないんだよ。師匠は、自己防衛を続けていると知らない間に何年も経つって言ってた。逆に言えば、やめた瞬間から時計が動き出すんだ」
「先輩はいつやめられたんですか?」
「やめられたっていうか、今でも油断するとやるよ。ただ、気づくのが早くなった。あ、今自分を守ろうとしてるなって。それだけでも全然違う」
先輩はビールを飲み干して、前回と同じ言葉で締めた。
「師匠はいつもこう言ってたよ。俺も全然できてないけどなって。でもさ、あの人が違ったのは、できてない自分をちゃんと見てたってことなんだよ。見た上で、毎日少しずつ変えようとしてた。それが自己防衛をやめるってことなんだと思う」
帰り道、自分に聞いてみた。今日持ち越した仕事は、本当に「仕方なかった」のか?
答えは、わかっていた。