Yyatmita

第1話: 時間がない——プレーイングマネージャーの最初の壁

管理職になったばかりのワタシが、時間がないと嘆く夜。先輩から師匠のタイムマネジメントの教えを聞く

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「先輩、ちょっと聞いてもらっていいですか」

金曜の夜、行きつけの居酒屋で先輩を捕まえた。先月、はじめて部下を持った。3人のチームを任されて、もう限界だった。

「どうした、顔色悪いぞ」

「部下を持ったら、時間が全然足りなくて……。自分の仕事もあるのに、部下の相談に乗って、上への報告資料も作って、会議も増えて。毎日10時まで残ってるんです」

先輩はビールを一口飲んで、少し笑った。

「お前、管理に専念できると思ってたろ」

図星だった。管理職になったら、マネジメントに集中できるものだと思っていた。

「師匠がよく言ってたんだけどさ。中小の管理職はプレーイングマネージャーだ、管理だけやってる余裕なんてないぞって。現場も回しながら、人も見て、数字も追う。それが現実だって」

「えっと……じゃあ、どうすればいいんですか? 物理的に時間が足りないんですけど……」

「本当にそうか?」

先輩の声が少し真剣になった。

「師匠に同じことを言ったら、こう返されたよ。それは時間がないんじゃなくて、順番がついてないだけだって。何が大事で何が後でいいか、ちゃんと分けてるかって聞かれて、何も言えなかった」


「忙しい」の正体

言われてみると、思い当たることばかりだった。

部下から質問されるたびに手を止めて対応していた。上司に頼まれた資料を「急ぎで」と言われてすぐ取りかかった。でもよく考えると、締め切りは来週だった。メールが来るたびに返信していた。

全部に同じ優先度で反応していた。

「先輩も最初はそうだったんですか?」

「もちろん。師匠にこっぴどく言われたよ。お前、自分ではちゃんとやってるつもりだろうけど、周りに振り回されてるだけだぞ。しかもそれに気づいてないって。あれは堪えた」

振り回されている——その言葉が刺さった。自分では頑張っているつもりだった。でも実際は、来たものを来た順に処理しているだけだった。それは「管理」ではなく「反応」だ。


優先順位は技術である

「でも、優先順位をつければいいって話ですか? それって……当たり前のことじゃないですか」

「当たり前のことが、なぜできてないんだ?」

返す言葉がなかった。

「優先順位って、頭では誰でもわかってるんだよ。でも実行するのは技術なんだ。師匠はタイムマネジメントは早いうちに身につけとけ、歳とってからじゃ間に合わないって言ってた。時間の使い方と成果は直結してるんだって」

先輩が箸を置いて、指を3本立てた。

「俺が師匠から学んで、今でもやってることが3つある」

「1つ目。朝、その日にやることを書き出す。全部。部下の相談も、自分の作業も、会議も。そして今日やらなきゃいけないこと明日でもいいことに分ける。これだけで、1日の動き方が変わる」

「2つ目。自分がやるべきことと、人に振れることを分ける。お前、部下の質問に全部自分で答えてないか? 3人のチームなら、部下同士で解決できることもあるはずだ」

「3つ目。振り回されそうになったら、一拍おく。メールが来た、電話が来た、上司に呼ばれた。そのたびに反応するんじゃなくて、『これは今か?』と自分に聞く。1秒でいい」


プレーイングマネージャーの現実

「でも先輩、それでも時間は足りなくないですか? 自分のプレーヤーとしての仕事もあるわけで……。結局、全部はできないですよね……」

「そう、そこなんだ。師匠が言ってたのは、時間が足りないのはお前のせいじゃない、構造の問題だってこと。中小の管理職は、プレーヤーと管理職を兼ねるのが前提なんだから」

少しだけ気持ちが楽になった。

「ただし」

先輩が人差し指を立てた。

だから仕方ないで終わるなよって話だ。時間がないのは事実。だからこそ、限られた時間で何を選ぶかが管理職の仕事になる。全部やろうとするから潰れる。何をやらないか決めるのが、管理職の最初の仕事だ」

何をやらないか決める。

それは、今まで考えたことのない発想だった。プレーヤーとしては「全部やる」が正解だった。振られた仕事は全部引き受けて、全部やりきるのが優秀な社員だった。でも管理職は違う。全部やったら潰れる。だから選ぶ。

「師匠は笑いながら言ってたよ。管理職手当もらってるんだから、その分ちゃんと頭使えよって。手を動かせって意味じゃなくて、判断しろって意味だったんだよな、あれは」


来週から何をするか

「わかりました……。でも正直、来週の月曜からすぐ変えられますかね?」

「全部は無理だ。まず1つだけやれ。朝、書き出せ。それだけでいい。書き出すだけで、自分が何に時間を使っているかが見える。見えたら、次に何をやめるか考えられる」

先輩はビールを飲み干して、こう続けた。

「師匠ってさ、毎回こう締めてたんだよ。俺も全然できてないけどなって。あの人、どれだけ偉くなっても毎回それを言ってた。できてないのは恥ずかしいことじゃない。できてないと認めて、少しずつ変えていく。それが管理職の始まりだと思うよ」

帰り道、少しだけ肩が軽くなった気がした。

時間がないのは事実だ。でも、時間がないなりにやれることがある。まず明日の朝、やることを書き出してみよう。