【第3回】ガチャを強みにする——AI3者ネーム会議という悪魔的発想
AIマンガ制作の弱点だった「ガチャ」を逆に強みにする発想転換。Claude・Codex・Geminiに同じシナリオを渡してネームを書かせ、相互レビュー→匿名投票で最善を選ぶフローを構築した
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前回まで、ずっと「ガチャ」を弱点として捉えていた。
思い通りの絵が出ない。何度もやり直す。クレジットが溶ける。時間が溶ける。セリフを直すだけなのにひげが生えてメガネが現れる。
でも考えてみると、この「何パターンも出せる」というのは、人間の漫画家にはできないことでもある。
人間の漫画家は、下書きから一本の線にしないといけない。直すにしても、せいぜい数枚が限度だ。「このコマ、10パターン描いてみて一番いいものを選ぶ」なんてことは現実的にやれない。
AIなら、コマのプロンプトに従って何枚もパターンを出して、いいものを選べる。
修正するな。選べ。
第1回で体験した地獄——セリフを修正しようとして6時間沼にハマった——は、そもそもアプローチが間違っていた。「修正」しようとするから苦しい。最初から複数パターンを出して「選択」すればいい。
これまで弱点だった「ガチャ」を、逆に強みにできるんじゃないか。
悪魔的な発想
そこでさらに一歩進んだ発想が浮かんだ。
画像だけじゃなく、シナリオもガチャにする。
同じ原作シナリオを Claude、Codex、Gemini の3つのAIに渡して、それぞれにマンガのネーム(コマ割り・構成・セリフ)をフルで書かせる。3本のネームを比較して、一番いいものを選ぶ。
1つのAIにレビューさせるだけでは「ここが弱い」は指摘できても、「こういう表現もありえた」という発想の幅は出てこない。ゼロからのアイデアを複数出した方が絶対に面白い。
AI3者ネーム会議
しかもただ3本作って選ぶだけじゃない。こういうフローを組んだ。

ラウンド1:並列生成
同じシナリオを Claude・Codex・Gemini に渡す。ネームのフォーマットは MD + YAML で統一した。各AIが出力するのはこういう構造だ。
- ページ分割(何ページで構成するか)
- コマ割り(各ページのコマ数とレイアウト)
- コマごとの画像生成プロンプト(キャラの表情、構図、背景)
- セリフと効果音
3つのAIが、それぞれの解釈で同じシナリオをネームに落とす。
ラウンド2:相互レビュー
3本のネームを互いに見せる。各AIが他の2本について「いい点」と「悪い点」を挙げる。
これが面白かった。実際のレビューから抜粋する。
Claude が Gemini 案を評価して:
「止まった時計→動き出す時計」の通しモチーフが三者中最も優れた視覚的発明。 P4の「蜘蛛の巣が張った古い時計」とP7の「ホコリが払われ秒針が動き出す時計」が対になり、言葉なしで「自己防衛で成長が止まる→やめた瞬間に動き出す」を語る。
一方で Codex は同じ Gemini 案に対して:
3案の中では最も「正しい説明」が前に出ていて、主人公が刺される体験の生々しさは弱め。時計の比喩も1回なら強いが、P4とP7で重ねることで少し説明臭くなっている。
同じモチーフに対して「最も優れた発明」と「説明臭い」という正反対の評価が出る。これは1モデルのセルフレビューでは絶対に起きない。
ラウンド3:持ち帰り改善
レビュー結果を各AIに持ち帰らせて、自分のネームを作り直させる。
Gemini は他の案を見て、こう書いた。
取り入れたいアイデア:
- Claude の「感情の緩急(コミカル×ホラー)」——ずっとシリアスに語るのではなく、コミカルな表現を挟むことで直後の落差を際立たせる演出
- Codex の「読者に刺さるパンチライン」——「事実であることと、それを理由にしていいかは別」は非常に強力。読者の心もえぐる名言として採用したい
各モデルが「これは負けた」と思ったポイントを素直に吸収して、自分の案を改善していく。
最終ラウンド:匿名投票
改善したネームを匿名化(案A・案B・案C)して三者にまた読ませる。いちばんいいものを理由付きで投票させる。
結果はこうだった。
| 投票者 | 投票先 | 理由(要約) |
|---|---|---|
| Claude | 案A | 止まった時計→動き出す時計のモチーフが言葉なしでテーマを伝えきっている |
| Gemini | 案A | 視覚的な円環構造が美しく、コミカルな緩急が読後感を高めている |
| Codex | 案A | テーマが説明だけでなく絵でも伝わる。セリフの研磨度が一段高い |
3票全員一致で案Aが選出。 案Aの正体は Claude 案だった。
面白いのは、Claude 案が選ばれた理由の中に、レビューで他の案から吸収した要素が含まれていること。Gemini の「止まった時計」モチーフを Claude が取り入れ、それがさらに評価されている。相互レビューが単なる比較ではなく、案そのものを進化させる仕組みになっていた。
なぜこのアプローチが有効なのか
1つのAIに「このネームをレビューして改善して」と頼むのと何が違うのか。
違いは発想の幅だ。
1モデルのセルフレビューでは、自分が思いつかなかった構成は出てこない。「ショック」を表現するとき、あるAIは「目を見開くアップ」を選ぶ。別のAIは「後ずさりする全身」を選ぶ。また別のAIは「手元のグラスが震えるカット」を選ぶ。
3つの解釈を並べて比較することで、「どの表現が一番伝わるか」を選べる。これは人間の漫画家でも得がたい体験だ。プロの漫画家は1本のネームを推敲する。3本のネームを比較検討できる機会はなかなかない。
不可逆な選択からの解放。 これがAIマンガ制作の本質的な強みだ。
人間の役割
全部をAIに任せているわけではない。
最終投票の結果を見て、採用するかどうかは人間が決める。「ここはClaude案のコマ割りがいいけど、セリフはGemini案の方が自然だ」——そういう部分的な採用もできる。
AIが出してくるのは「選択肢」だ。最終的に何を選ぶかは、作品のビジョンを持っている人間の仕事。
次回予告
ネーム会議で最善のシナリオが決まった。でもそれを実際のマンガにするツールがない。前回で OSSマンガエディタは挫折した。
じゃあ作ろう。
あのツールで苦労した原因——HTML 1枚の密結合、外から制御できない設計——を全部避ければいい。逆にいえば「こう作ればいい」がわかっていた。
次回「manginus——失敗から生まれた自作マンガエディタで第2話を完成させた」に続く。