【第4回】MiniMax H3 の代わりを探す——Wan と LTX を『鼻』と同じ入力で比べた
前回の『鼻』で使った MiniMax H3 は、生成物の使い方にも地域の制限があった。そこで、制限の無いオープンなモデル Wan と LTX を、同じ絵コンテ・同じ声で作り比べた。Colab の A100 で動くか、どんな絵が出るか、どんな制御ができるか、ライセンスはどうか。3 回・約 10.5 ユニットの記録。
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この記事の動画は、すべて AI 生成動画(映像: LTX-2.3/Wan 2.2 S2V/Wan 2.1 VACE、セリフの声: Irodori-TTS)。
前回は、芥川龍之介『鼻』を MiniMax H3 で約 2 分のミニアニメドラマにした。締めに「ライセンスの地域の制限が無いモデル(Wan、LTX など)で、同じ作り方ができるか。次はこれを確かめる」と書いた。今回はその確かめだ。
先に結論を書いておく。
- どちらも Colab の A100 で動いた。3 回借りて約 10.5 ユニット
- 絵を何枚も固定して動きを指示するのは、LTX が速くて乱れも少なかった。H3 で 11 か所を固定したカットも、同じ絵を置けば同じように作れた
- しゃべるカットは、Wan の S2V がいちばん安定していた
- ライセンスは Wan(Apache-2.0)がいちばん縛りが少ない。LTX は AI 生成の表示などの条件が付く
- なので、どちらか 1 つではなく、カットの種類で使い分けるのがよさそうだ
なぜ乗り換えを考えたか
前回の「ライセンスを読み落としていた」の節に書いたとおり、MiniMax H3 のライセンスは、生成物の使用・表示も、米国・EU・英国・韓国の外に限っている。このサイトでは、H3 で作った動画をその地域から再生できないようにした。
ネットに出す動画で、毎回この制限を気にするのは重い。作り方(絵コンテの絵を何枚も固定し、用意した声で口を動かす)はそのままに、制限の無いモデルへ移れるかを確かめることにした。
比べたもの
2026 年 11 月の時点で、重みが公開されている最新の版を調べた。
| 公開されている最新 | 備考 | |
|---|---|---|
| Wan(アリババ) | 2.2。途中のコマを制御する VACE は 2.1 | 2.5〜3.0 は API だけで、重みは出ていない |
| LTX(Lightricks) | 2.5(2026 年 7 月)。2.3 は 2026 年 3 月 | 2.5 は Hugging Face でログインと同意が要る。2.3 は要らない |
今回の Colab では、ログインせずに取れる LTX-2.3 と Wan を使った。2.5 は、取るのにトークンが要る。Colab の VM にはトークンを送らないことにしているので、今回は見送った。
使ったモデルは 3 つだ。Wan は目的別に 2 つ、LTX は 1 つで済む。
| 使ったモデル | 役目 | 今回の使い方 |
|---|---|---|
| Wan 2.2 S2V 14B | 声から動画(Sound to Video) | 始まりの絵と声を渡して、しゃべらせる |
| Wan 2.1 VACE 14B | 制御用の動画とマスクで、途中のコマに絵を置く・参照絵でキャラを保つ | 絵コンテの絵を決めたコマに置く |
| LTX-2.3 22B | 映像と音を一緒に作る。決めたコマに絵を置ける | 絵を置く・声を入れる・その両方 |
VACE は、動画を作る・直すをいくつも 1 つでこなす版の Wan だ。制御用の動画(どのコマに何を見せるか)、マスク(どこを残してどこを作らせるか)、参照絵を一緒に渡せる。Wan で途中のコマに絵を固定するなら、ほかに手は無い。
ライセンス
それぞれのライセンスの原文を読んで、論点を並べた。
| 論点 | Wan | LTX-2.3 | LTX-2.5 | 参考: H3 |
|---|---|---|---|---|
| ライセンス | Apache-2.0 | LTX-2 Community License | LTX-2.x Community License | 独自 |
| 地域の制限 | なし | なし(輸出管理・制裁の条項だけ) | なし(同じ) | あり |
| 売上の条件 | なし | 年 1,000 万ドル以上の会社は有料の許諾 | 同じ | 年 2,000 万ドル超で許諾 |
| 生成物 | 定めなし | 作者は権利を主張しない。禁止用途の一覧に従う | 同じ | 権利を主張しない |
| AI 生成の表示 | 義務なし | 機械生成だと明示する | 同じ | 明示する |
| 禁止用途の一覧 | なし | あり(付属書 A。別の利用方針も参照) | あり(付属書 A と、組み込まれた利用方針。性的に露骨な内容など) | あり |
| 透かし・来歴の情報 | — | 定めなし | 消す・変えるのを禁止 | — |
| ほか | — | 最新版を使う努力義務、作者が遠隔で制限できる | 同じ。重い違反で通知なく終了 | — |
LTX-2.3 は、文章を読む部分に Gemma 3 を使う。Gemma 3 には Gemma 独自の利用規約があるので、それも関わりうる。ただ、文章を読む部品として使ったときに動画の出力まで及ぶかは、条文からは読み取れなかった。2.5 は Gemma 4(Apache-2.0)に替わっている。
いちばん縛りが少ないのは Wan だ。LTX は、AI 生成の表示(このサイトではもともと書いている)と禁止用途の一覧を守れば、『鼻』のような作品には収まる。
動かす場所の規約もかかる
モデルのライセンスとは別に、動かす場所の規約もある。Colab の FAQ には「許されていない使い方」の一覧があり(無料版と有料版で中身が違う)、ディープフェイクの作成は入っている。性的な内容の項目は無かった。
ただ、Google には生成 AI の禁止事項の方針が別にあり、性的に露骨な内容を禁じている。これが Colab で動かす処理にもかかるのかは、FAQ からは読み取れなかった。モデルのライセンスで許されていても、Colab ではアカウントに響くおそれがある。きわどい内容を試すなら、手元の GPU で回すのが無難だと判断した。
比べ方
見たのは 3 つだ。
- Colab で動くか(時間、VRAM、ユニット)
- どんな絵が出るか(手描きアニメ調が保てるか、崩れないか)
- どんな制御ができるか(声に口を合わせる、途中のコマに絵を固定する)
入力は『鼻』と同じにした。同じ絵コンテの絵を同じコマに置き、同じ声を使い、H3 で作ったものと並べる。題材にしたカットは 3 つだ。
| カット | 中身 | 見たいこと |
|---|---|---|
| C06 | 弟子が「京のお医者さまから、鼻を短くする方法を聞いてきました」と言う。内供は黙って聞く | 声に口が合うか。話す人だけ口が動くか |
| C12 | 小坊主たちが陰で笑い、内供が振り返る。絵を 6 枚固定 | 途中のコマの固定 |
| C10y | 鼻の毛穴から脂を 4 本抜く。絵を 11 か所固定 | いちばんきつい固定。抜いた穴に粒が戻らないか |
グラフ(ComfyUI に渡す処理の組み立て)は、ComfyUI に付いている公式の見本を元に組んだ。プロンプトは、LTX に付いている「プロンプトを書き直すノード」は使わず、Claude に書いてもらった。
Colab では、カスタムノードを入れずに ComfyUI 本体だけで動かしている。VM を借りる前に、手元で「本体のノードだけでできているか」「必須の入力がそろっているか」「つなぎ先の型が合うか」を機械的に確かめた。Wan S2V は手元の RTX 3090 にも入るので、小さめ(480×864)で 1 本流して、グラフが動くことも確かめた(420 秒)。
Colab で動くか
動いた。1 本あたりの時間と VRAM はこうだった(A100 80GB、704×1280)。
| モデル | カット | 長さ | 時間 | VRAM の最大 |
|---|---|---|---|---|
| LTX-2.3 | C06 | 161 コマ・24fps | 100 秒(モデルの読み込み込み) | 44GB |
| LTX-2.3 | C12 | 145 コマ | 51〜61 秒 | 44GB |
| LTX-2.3 | C10y | 281 コマ(11.7 秒) | 139 秒(読み込み込み) | 45GB |
| Wan 2.2 S2V | C06 | 77 コマ×2・16fps | 308 秒(読み込み込み) | 40GB |
| Wan 2.1 VACE | C12 | 81 コマ・16fps | 290 秒(読み込み込み) | 51GB |
| Wan 2.1 VACE | C10y | 185 コマ(11.6 秒) | 1,040 秒 | 63GB |
- LTX は速い。前回の H3 は 124 コマで 1 本 130〜145 秒だったので、それより速い
- Wan は 1 本 5 分前後。VACE は学習の長さが 81 コマ(16fps で約 5 秒)で、その 2 倍強の 185 コマにすると、約 17 分かかった
- モデルの取得は、Hugging Face から 100GB 近くを 4 分半で取れた(毎秒 377〜395MB)。前回悩まされた 429 は、今回は出なかった
しゃべるカット(C06)
声は 0.8 秒目から 5.3 秒まで。LTX は始まりと終わりの絵を固定し、声を「変えない音」として入れて映像だけを作らせた。Wan S2V は始まりの絵と声を渡した。
LTX-2.3(AI 生成)
Wan 2.2 S2V(AI 生成)
どちらも、動画の音は渡した声のトラック(Irodori-TTS)に差し替えてある。
弟子の口元を 0.125 秒ごとに並べた。
- Wan S2V は、顔の位置も形も最後まで崩れず、セリフの間ずっと口が動いた。日本語の声で、音声の読み取りは英語用の部品だが、口は動く
- LTX は口の動き出しが早いが、1.5〜1.7 秒で弟子の位置がずれ、顔が一瞬崩れるコマがあった
- 内供(黙る方)の口は、長い鼻に隠れていて、どちらも判断できなかった
- Wan S2V は 77 コマずつ作って延ばすので、映像は 9.9 秒になる。声の長さで切って使う
6 枚を固定する(C12)
前回、H3 で 3 回作り直したカットだ(1 回目は内供が画面から消え、2 回目は同じ動きを繰り返した)。同じ 6 枚の絵を、同じコマに置いた。Wan VACE は 81 コマまでなので、5.9 秒を 5.1 秒に縮めて置いている。
LTX-2.3(AI 生成)
Wan 2.1 VACE(AI 生成)
固定したコマを、固定した絵と並べた(左から 絵、H3 の 3 回目、LTX の強さ 0.7、LTX の強さ 1.0、Wan VACE)。
- LTX も Wan VACE も、背を向ける → 小坊主たちが笑う → 振り向く → 鼻をかく → 小坊主たちが去る、と絵の順に進んだ。内供は左に留まっている
- LTX は、固定の強さ 1.0 の方が絵に近い。0.7 では「気づく」で振り返らなかった
- Wan VACE は、黒い衣が少し濃く出る
11 か所を固定する(C10y)
前回、いちばん苦労したカットだ。鼻の毛穴から脂を 4 本抜き、懐紙に並べる。画像生成で絵コンテの続きを描かせると、抜いた穴に粒が戻ってしまう。そこで、穴と懐紙の脂を描き入れた絵を用意し、11 か所に置いて押さえた。H3 はこれで、穴を保ったまま 11.5 秒を 1 本で作れた。今回も、同じ絵を同じコマに置いた。
LTX-2.3(AI 生成)
Wan 2.1 VACE(AI 生成)
鼻の同じ所を、2 秒から 11.5 秒まで並べた。
- どちらも、抜いた穴は 1 → 4 と増え、粒は戻らなかった。懐紙の上の脂も 1 本ずつ増える。固定した絵があれば、H3 と同じように穴は保てる
- Wan VACE は、1.0〜1.5 秒で、まだ抜いていない脂が懐紙の上に 2 本出て、2 秒には消える。「置く前に脂が出ない」が守れていない。LTX ではこれは見当たらなかった
- 時間は LTX が 139 秒、Wan VACE が 1,040 秒。約 7 倍の差がある
絵を固定しないと(キスの場面)
絵コンテの絵を置かず、文章だけで作るとどうなるかも試した。題材はキスの場面だ。銀杏の下で、20 代後半の男女が見つめ合い、男が頬に手を添え、口づけをして、額を合わせる。
LTX-2.3(AI 生成)
Wan 2.1 VACE(AI 生成)
- どちらも、書いたとおりの流れで口づけまで描けた
- 絵柄は、プロンプトに「手描き・色鉛筆」と書いても、LTX はコミック調、Wan はアニメのセル画調に寄った。『鼻』の絵柄が保てたのは、固定した絵のおかげだとよく分かる
使い分け
| カット | 向いていたもの | 理由 |
|---|---|---|
| しゃべるカット | Wan 2.2 S2V | 顔が崩れず、口が声に沿って動き続ける |
| 動きが多く、絵を何枚も固定するカット | LTX-2.3 | 絵の順に進み、乱れが少なく、速い。11 秒を 1 回で作れる |
| しゃべりながら動くカット | LTX-2.3 | 声と固定する絵を 1 回で渡せる。今回は始まりと終わりの 2 枚+声で試しただけで、途中の絵まで置いた組み合わせは試していない。Wan では S2V と VACE が別のモデルで、1 回ではできない |
Wan の弱いところは、まだある。16fps で作るので、24fps の作品に混ぜるならコマを足す必要がある。VACE は 1 回 5 秒前後が基本で、長いカットはつなぎ足しになる。
時間とユニット
| 回 | 日時 | 本数 | 分 | ユニット | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 11/03 12:17 | 5 | 24 | 3.40 | 成功・接続切れ 3 回 |
| 2 | 11/03 13:21 | 3 | 23 | 約 3.54 | 4 本目を止まったと見なして打ち切り(下の失敗の記録) |
| 3 | 11/03 14:15 | 1 | 24 | 3.60 | 成功。2 回目の 4 本目の作り直し |
| 計 | 9 | 71 | 約 10.5 |
- 1 回の準備(VM の確保、ComfyUI の導入、入力の転送、モデルの取得、起動)は 6〜8 分で、前回の 8〜10 分より短い。取得が速かったため
- 2 回目は、終わった時点では 2.81 だったが、あとから 0.73 引かれた。差し引きが遅れて出るのは前回と同じだ
失敗の記録
止まっていないのに、止めた(2 回目)
前回の失敗から、生成の様子を外から見て「5 分進まなければ止まったと見なして打ち切る」ようにしている。Wan VACE で 185 コマを作ったら、1 段に 2〜3 分かかり、記録が 5 分変わらない間があって、打ち切られた。
ComfyUI の記録を見ると、6 段のうち 3 段まで進んでいた。止まっていたのではなく、遅かっただけだ。長いクリップでは、見る時間を延ばす(3 回目は 15 分にして通った)。
入力の確認用の表示を、出来た動画と数えた
Wan VACE には、絵を置いた制御用の動画を入力として渡す。ComfyUI は、読み込んだ動画を確認用にも返す。それを出来た動画と一緒に回収しようとして、存在しないファイルを取りに行き、記録の本数も 7 本(本当は 5 本)になった。出力の場所にあるものだけを回収するように直した。
「あとから口だけ合わせる」は、本体ではできない
Wan では声(S2V)と絵の固定(VACE)が別のモデルだ。そこで、VACE で動きを作ってから、声に合わせて口だけ動かし直せないかと考えた。ComfyUI の公式の見本に、声で動画を作る InfiniteTalk(Wan 2.1 系)があったからだ。
調べると、ComfyUI 本体の InfiniteTalk のノードに入れられるのは、始まりの絵と、前の回の続きのコマだけだった。出来た動画を入れて口を合わせ直す口は無い。カスタムノードを使わない限り、この組み合わせはできない。
まだ分かっていないこと
- カットの切り方の良し悪し。今回見たのは「絵コンテどおりに出せたか」「崩れないか」で、カットとして良いかではない。どこで切るか、寄りか引きか、どれくらいの長さか、何でつなぐか。この物差しが無いと、出た絵の良し悪しも決めきれない。次はここを固めたい
- LTX-2.5。2.3 より絵が良くなったと公式は言うが、取るのにログインと同意が要り、ライセンスの条件も増える
- Wan で、しゃべりながら動くカットを 1 回で作る方法
- 2 人が同じカットで交互に話すカット
前回の記事: 【第3回】芥川『鼻』を 2 分のミニアニメドラマにしてみた——Colab の A100 と MiniMax H3 で、固定する絵で動きを指示する