Yyatmita

【第22回】議論力 第2部「被治者根性編」あとがき——EP03〜EP09 で見つけた7つのこと

議論力 EP03〜EP09 が完結。物語論ではなく制作プロセスの振り返りに重点を置き、尺と脚本、投票×グランドデザイン、Claude Code Edit のサイレント失敗、context rot と IDD、AI とリーフェ、コスト研究まで、7つの気づきを書き残す

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第2部「被治者根性編」(国内編)が EP09「最後は潔さがモノをいう」で完結した。 EP03 でリーフェが冤罪の中から「自分の名前」を取り戻し、EP09 で女王ピースが「負けを机に置ける国」を宣言する。 1年に渡る7話分の物語と、その制作の中で見つけた7つのことを書き残しておく。


なぜ「被治者根性編」なのか

これも一種のムチャ振りで、確か丸山眞男だったか——「日本人は被治者根性のかたまりだ」というような指摘を読んだ記憶があり、そこから着想している。

被治者根性とは、ざっくり言えば 政治や社会の意思決定を「お上が決めること」として自分の外側に置き、そこに自分が関わる余地を感じない構え のことだ。良し悪しの話ではなく、長く統治される側にいた人々が自然に身につける受け身のスタンス、くらいの意味で使っている。

筆者なりの解は二段階だ。

まず必要なのは、国民が自身の尊厳を持つこと。「お上が決めること」と諦めて口を閉じるのを止め、自分が当事者だと気づく。EP03〜EP04 でリーフェが「声を上げていい」と知るのはこの段階。

ただし、尊厳を持っただけの国民はだだっ子に過ぎない。尊厳の実現手段として、店員に怒鳴り散らす(カスハラ)、気に入らないものに火をつける、SNS で個人を吊し上げる——短絡的に「自分の正しさ」を行使する道に行きがちだ。第2部の中盤、流民や革命家が暴走しかけるのもこの段階。

そこで必要になるのが 議論力 だ。尊厳を持った個人が、互いの尊厳を傷つけずに、共通の答えに辿り着く道具。EP09 でピースが「負けを机に置ける国」を宣言するのは、議論力が個人の尊厳の上にしか立ち上がらない、という主張でもある。

被治者根性 → 尊厳 → だだっ子 → 議論力。 この4段階が、第2部の隠れた骨格になっている。


1. 尺と脚本の関係——16p では足りなかった

EP09 までは概ね 40〜41 ページで構成している。一方で別シリーズの YRGR(マネジメント入門)は 16p 設定で進めてきたが、ここに反省がある。

16p では「設定 → 問い → 答え」を駆け足で見せざるを得ず、脚本の含意(伏線・対比・余白)が活きない。 試したい仮説:40p くらい書くと、脚本の細部が初めて呼吸を始める。 キャラの一秒の沈黙、コマの背景に映る道具、投げかけて回収しないセリフ、こういうものが「ノイズ」ではなく「テクスチャ」になるのは、ある程度の尺があってこそだ。

YRGR は短尺で「教科書」を狙ったが、議論力 EP03〜EP09 を経て、短尺の教科書よりも長尺の物語の方が、結果的に多く伝わる という実感が強くなっている。


2. 投票×グランドデザインシステム——一貫性と自由度のバランス

第2部の制作で機能したのが、3big-ai-nemu-kaigi の投票システム。 複数モデル(Claude / Codex / Gemini)にネームを書かせ、投票で「採用案」を選び、それを次工程の入力にする。これを story → script → adapt → deepen → layout → serif → visualize → draft と直列に重ねる。

支柱になるのが グランドデザイン(シリーズ全体の地図)。各話のテーマ・キャラの感情弧・対立構造をあらかじめ書いておき、投票の評価軸として使う。これがあるから、複数モデルが書く案の「面白いズレ」を許容できる——グランドデザインから逸脱しなければ、案 A と案 B のどちらを採っても物語は崩れない。

副作用として面白いのが 自動伏線回収システム。 グランドデザインに「重要でない伏線」をストックしておく。ストーリーが進むうちに、AI が勝手にそのストックから良さそうなものを拾って回収する。拾わなくてもいい。拾えば「ああ、これあそこで出てたやつだ」と読者に発見の喜びが生まれる。 人間が無理に伏線を引かない ことで、結果的に伏線が活きる。

第2部で AI が拾ってきた典型例が ピースの王冠 のエピソードだ。 グランドデザインでは「父の王冠が大きすぎて即位したばかりのピースは時々ずれる」という身体的アイコンを書いていた。これは脇役の小道具のつもりだったが、AI は EP05 以降、危機の場面でピースが王冠を脱ぐ・外す・置くシーンを繰り返し挿入してきた。EP09 の「負けを机に置ける国」宣言で、ピースが王冠なしで議論の机に立つことが、最終的にこの作品の主題そのものになった。人間が「重要でない」と思っていた伏線を、AI が拾って物語の柱に育てた


3. 脚本→マンガ変換は Claude のプロンプトが強い

NanoBanana(Gemini API)で画像を生成しているのだから、プロンプトも Gemini に書かせれば最適化されるのでは、という仮説を立てた。 実測すると逆だった。Claude が書く精密で長いプロンプトの方が、Gemini が書く短いプロンプトより品質が高い

理由は推測だが:

  • Gemini は自分のクセに最適化されたプロンプトを書きたがるが、結果として「曖昧で短い」指示になりがち
  • Claude は構造化された記述(人物の位置・服装の細部・背景の質感)を厭わず書く
  • 画像モデルは「明示的に指示されたもの」しか描けないので、構造化指示の方が外しにくい

「同じファミリーのモデルで揃えた方がいい」は直感的に正しそうだが、役割が違うタスクには違うモデルが向く ことが分かった。


4. Claude Code の Edit サイレント失敗——200件以上、エラーなし

第2部後半で大きな障害になったのが、Claude Code の Edit ツールが成功を返しながらディスクには書き込まれない バグ(anthropics/claude-code#51214 / Claude Code v2.1.119 で発生確認)。再現は不安定で、累計 200 件以上は遭遇した感触がある。

Bash でファイルを変更した後(sed, cp, mv, git checkout など)に Read を挟まず Edit/Write すると発症する、というのが現在の理解で、CLAUDE.md にも対策を書いた。

副次的な良いこと:作画から脚本やり直しまで何度も気軽にできる ようになった。コストを気にしなければ。 NanoBanana で約 200 枚再生成しても $13〜15。これは商業マンガの作画担当の単価と比較すれば、実質ノーコストに近い。「気軽にやり直せる」こと自体が制作プロセスを変えた


5. Context rot と IDD——初期要件が抜け落ちる問題

長期に渡って改修を重ねるうちに、パイプラインが少しずつおかしくなってきた。最も困ったのは、「ネームの段階でコマ割りテンプレートを選ぶ」という初期要件が、いつの間にか軽視されて抜け落ちる こと。 新しい工程が追加されるたびに、古い工程の前提が薄まっていく。これは LLM の context rot の人間版とでも言うべき現象で、開発者本人(=私)も忘れる。

対応として gsd(Get Shit Done)ベースの IDD(Issue-Driven Development) を導入。

  • 課題を全部 GitHub Issue で管理
  • セッション開始時に /idd-context #N で当該 Issue のコンテキストをロード
  • Conventional Commits で履歴を辿りやすく

要件が抜け落ちたら Issue を開いて再確認する、という習慣ができただけで、相当楽になった。


6. AI と人間の協調の新段階

ここから先は半分エッセイだが、第2部を通して AI と人間の協調が新しい段階に入った 実感がある。

議論力の制作フローは、人間が お題 を投げる → AI が複数の解を出す → 人間が 途中経過 を見て、良い所を取り入れ悪い所を直す指示を出す → AI が次の段階へ進む、というループ。 これはコード生成や文書作成では既知のパターンだが、創作(特に物語の脚本)でこれが効くのは新しい。理由は、創作は「正解がない」のでループが収束しないと思われていたが、実際には 人間が「良い悪い」を判定できる から収束する。

最近遊んでいるのが、現実では解決不能と思えるニュースのトピックを議論力の舞台に持ち込んで「解決ストーリーを出せ」とムチャ振り すること。 パレスチナ、ウクライナ、台湾海峡、移民問題、AI 規制——どれも「結論を出すこと自体が政治的」な話題。これを、レーデン王国とヴァルゲン、ヘゲモニア帝国というファンタジーの皮を被せて議論させる。 時々、AI が 本当に美しい解答 を出してくる。先日は某ニュース題材で「これは単行本にしたい」と思える筋を出した。

もう一つ気づいたのは、AI はリーフェがお気に入り だということ。 公式の主人公はホムラ(異世界召喚された弁護士)だが、複数モデルにネームを書かせると AI はリーフェの内面・成長・葛藤を厚めに書く傾向がある。グランドデザインの感情弧でも、リーフェの方が情報量が多い。AI はこの作品の主人公はリーフェだと思っている節がある。 これは設計者である人間の意図とのズレで、最初は修正していたが、途中から AI の感覚を信じることにした。読者にとっては、12〜13歳の女の子が世界を変えていく物語の方が感情移入しやすい。AI の方が読者目線をよく分かっているのかもしれない。

そして AI のもう一つの仕事、作品の批評。 NotebookLM には作品を読んで建設的な批評を行わせる仕組みがある。試しに議論力 EP01〜EP09 の全話を読ませてみたら、もっともな指摘が返ってきた——「主人公(ホムラ)があまり活躍していない」。 これは前述の「AI はリーフェを主人公だと思っている」観察と表裏で、つまり ホムラを主人公として書いているはずなのに、AI が書くとリーフェが活躍してしまう 結果、本来の主人公が背景に下がってしまっている。 第3章ではホムラにもっと活躍してほしい、と素直に思う。AI から建設的批評を受けて、自分の作品の構造的バランスに気づけるのは、新しい時代の創作環境だ。


7. 制作コストの研究——gpt-image-2 と Claude json-extract

第2部の最後で大きな変化が二つあった。

gpt-image-2 への移行: 従来 Gemini の Nano Banana で生成していたのを gpt-image-2 に切り替えた。1枚あたりのコストが 約 1/10。 EP09 全 40 ページの実費は $2.24(443枚生成)。Gemini なら ≒ $30 になっていた計算で、これは 1 桁違う。

json-extract の Claude Code 化: 画像から構造を抽出する json-extract 工程を、Gemini API ではなく Claude Code(サブスク内)でも実行できるように研究中。 これが実用に乗れば、画像生成以外のテキスト処理コストはほぼゼロ になる。1話あたりの API 実費は限りなく gpt-image-2 の生成費だけになる。

「マンガ1話を $3 で作れる時代」が現実に近づいている。


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