【第27回】ブッダイズム。Vol1 を paperback + Kindle で出す話——KDP の地雷原を踏み抜いた survival manual
議論力 Kindle 出版から 2 日、英訳ブッダイズム Vol1 を paperback + Kindle 同時出版へ。Kindle のハイブリッド EPUB は KDP に通らず all-image に戻し、paperback では Trim/Bleed/背幅/gutter shift/column padding/proof copy と新しい地雷を踏み抜いた。Kindle と paperback は別ゲームだったという記録
← 前の記事: 【第26回】Kindle 単行本にしてみた話——画像 EPUB の落とし穴と、35% 投げ銭モデルの限界第26回 で議論力 EP01-09 を Kindle 単行本 2 巻として出版した話を書いた。あれは Kindle 単独・35% 強制・日本語・web 全話無料公開ありの「投げ銭モデル」だった。
2 日後の今、英訳 ブッダイズム。 Vol1 を paperback + Kindle 同時出版へ向けて作業している。条件が議論力とまったく違う。
| 議論力 Vol1-2 | ブッダイズム。Vol1 | |
|---|---|---|
| 言語 | ja | en |
| web 公開 | 全話あり | なし |
| KDP セレクト | 取れない (web 公開と独占要件が衝突) | 取れる |
| ロイヤリティ | 35% 強制 | 70% |
| 価格 | ¥499 / ¥599 | $8.88 (Kindle) + $14.99 (paperback) |
| paperback | なし | あり |
paperback が増えた瞬間、ゲームが変わった。
結論を先に書く: paperback は別ゲーム。Kindle のノウハウは半分しか効かず、Trim・Bleed・背幅・gutter shift・column padding・proof copy と新しい地雷を踏み抜いた。本記事の執筆時点では校正刷り (proof copy) の配送を待っている段階で、現物確認後に publish する。
ハイブリッド EPUB は KDP に通らなかった
第26回で議論力 Kindle のハイブリッド EPUB (漫画=JPEG / 付録=XHTML テキスト) の話を書いた。ファイルサイズが減って検索可・コピペ可・読み上げ対応になる、と。
書いた本人として補足する: 議論力でハイブリッドが通ったのは半ばハックだ。固定レイアウト EPUB の column XHTML を Kindle 側がどう解釈するかは仕様で保証されておらず、議論力ではたまたま通った。原理的に解決していない問題を、運でかわしているだけだった。
ブッダイズム Vol1 で同じ構成を試したらハマった。
- column の CSS (font-size, padding, line-height) が Kindle 側で無視され、見た目が崩壊
- v3 から v10 まで作ってアップロードしたが、KDP の内部変換が全部
Kindle 変換で内部エラーで蹴ってきた - epubcheck は 0 errors。EPUB 仕様には合っているが、Kindle 側の実装が許してくれない
3 時間ほど粘ってフラグを倒した。最初から all-image にしろ。
コラムページも manginus 上でレンダリングして PNG に落とし、KCC (Kindle Comic Converter) で詰める。
kcc-c2e \
-m -p K11 -f EPUB --nokepub --forcecolor \
-c 0 \
--mozjpeg --jpeg-quality 50 \
-t "Buddhaism. Vol.1" \
--author "Kurouto Koda" \
-o vol1.epub \
./png_dir/-c 0 でカバー自動付与をオフ、--mozjpeg --jpeg-quality 50 でファイルサイズと画質のバランスを取る。
KCC で TOC を綺麗に出すには、章ごとにフォルダを分けたうえで生成後に nav.xhtml / toc.ncx をスクリプトで置換する必要がある。フォルダ名の underscore がそのまま見出しに露出するため、後処理がいる。
は epubcheck が FATAL を出す (XML entity として未定義)。  に置換してから流し込む。
この時点で Kindle 側は通った。
Paperback PDF は別の生き物
Kindle が通って一息ついた後、paperback PDF の入稿を始めて気づいた。Kindle と paperback は同じ KDP 上のサービスだが、別の生き物だ。
ページサイズの考え方が違う。Bleed と背幅を計算しないと PDF が成立しない。
| 項目 | 値 | 備考 |
|---|---|---|
| Trim | 7.17 × 10.11 inch | KDP の "B5"。日本マンガと同じ aspect 0.708 |
| Bleed | 0.125 inch 全周 | 印刷後にカットされる領域 |
| Page size | 7.42 × 10.36 inch | Trim + Bleed × 2 |
| 解像度 | 300 DPI | KDP 推奨 |
| Page pixel | 2226 × 3108 px | 300 DPI 換算 |
| 背幅 | ページ数 × 0.002252 inch | B&W 本文 / white paper |
ブッダイズム Vol1 は 93 ページなので背幅 0.21 inch。KDP の perfect binding 最低要件 79p 近辺で、背は薄め。製本品質は現物を見ないと不明な薄さだ。
manginus の export パイプラインに paperback 用の PDF 生成パスを追加して対応した。
paperback で絶対やってはいけないこと
ここから本題の地雷集。Kindle で通ったロジックを流用すると全部踏む。
Gutter shift をかけない
紙の本は綴じ部に向かってページが沈む。RTL / LTR の綴じ側を空けようと、X 軸にコンテンツをシフトしたくなる。
やったら外側 (binding と逆側) のコマがガッツリ切れる。
Trim の自然な 0.25 inch マージン + 5.5% の column padding で十分。Gutter shift を追加で入れると、Trim でカットされる側の余白が削れて、コマや吹き出しが切られる。
吹き出しの自動シフトスクリプトを書かない
Trim 内 safe area を測って、はみ出した吹き出しを自動で押し戻すスクリプトを書いた。1 枚目を見て破棄した。
キャラの顔に被る。
吹き出しは「キャラの口元から伸ばす」ことで「誰が話しているか」を伝えている。safe area に押し戻すと顔と被って読めない。手動で 1 枚 1 枚見て、吹き出しを縮めるかコマ内の余白側に動かす。
結局は手作業のほうが速いし正確だった。
Column padding は 40 が sweet spot
manginus の column ノード (縦書き Markdown) は paperback で別の壁にぶつかる。
- padding 50 → 上余白が空きすぎ、本文が下にずれる
- padding 30 → 左にはみ出して Trim で切れる
- 40 が sweet spot。横マージン 5.5% に相当する
これは試行錯誤でしか見つからない。viewer の ColumnNode.tsx の挙動 (4 辺均等の padding) を読んでから調整するとロスが減る。
Column 最終行のフォントサイズを限界まで詰めない
paperback は Trim ぎりぎりで切れる。Vol1 制作中、column 最終行が Trim で切れる症状が複数ページで出た。font-size を段階的に詰めて検証:
| ページ | 当初 fs | 最終 fs |
|---|---|---|
| p46 | 22 | 20 |
| p69 | 20 | 18 |
| p93 | 18 | 16 |
1〜2pt 余裕を持って組むのが結論。Trim の誤差や column 内の line-height 計算の丸めで、1pt 違うとはみ出す。
校正刷り (Proof Copy) は絶対に頼め
paperback は PDF プレビューで捕まらない罠が多い。
- グロスカバーの色発色 (モニタと違う)
- 本文の濃淡 (黒レベルが薄くなる)
- 吹き出し縁取りの再現 (細い stroke が消える)
- 最終行の切れ (PDF プレビューでは入っていたのに紙で切れる)
- perfect binding の品質 (93p は最低要件近辺で、背の強度が現物次第)
KDP の校正刷りは印刷コスト ~¥530 + 国内送料で ¥1100-1300 で物理品質を確認できる保険だ。
タイムライン:
- 注文 → 4 時間以内に確認メール
- 24 時間以内に決済
- 4-7 日で配送 (国内印刷の場合)
Publish ボタンは校正刷りを確認してから押す。これは絶対のルール。本記事を書いている時点で Vol1 は校正刷りを注文済み、配送待ち。proof copy が届いて品質を確認したら publish する。
カテゴリ選定——3 枠は違うツリーに散らせ
KDP は 3 カテゴリ枠を選べる。同ツリー集中はランキングで損をする (内部の枠を奪い合う)。
ブッダイズム Vol1 の最終構成:
- Self-Help > Personal Transformation > Spiritual
- Comics & Graphic Novels > Religion & Spirituality ← マンガ × 宗教は競合ほぼゼロ
- Buddhism > Philosophy ← 「信仰ではなく framework」の本のための定番
避けたカテゴリ:
- Death & Grief — 重すぎてグリーフケア期待の読者と齟齬
- Self-Help の中で 3 枠 — 集中させるとランキングが内部で潰し合う
価格階段設計——Kindle $8.88 + Paperback $14.99
Vol1 は paperback と Kindle を両方出す。価格はロイヤリティで階段設計した。
| 価格 | ロイヤリティ | 取り分/冊 | |
|---|---|---|---|
| Kindle (KDP セレクト 70%) | $8.88 | 70% | $6.21 |
| Paperback (60% royalty) | $14.99 | 60% − 印刷コスト | $6.15 |
両者ほぼ同額 royalty。読者にとっては「物理本は ¥1500 ほど高いが作家に落ちる金は同じ」という健全な階段になっている。
93p の AI マンガ paperback として $14.99 は indie manga 100-150p 帯の妥当値。$19.99 まで攻めるのは「ニッチ + premium 訴求が立つ」場合のみ。ブッダイズム Vol1 は哲学 framework としての価値はあるものの premium 訴求は弱いと判断した。
ISBN——無料の KDP ISBN を使え
ISBN は KDP が無料で発行してくれる。9798- で始まる Amazon 限定流通 ISBN だ。
自前 ISBN を買う必要があるのは「Amazon 以外の流通も視野に入れる中規模以上の出版」だけ。個人作家の AI マンガ paperback で他流通実売はほぼ期待できないので、無料 KDP ISBN で十分。
外部流通 (Expanded Distribution) は OFF
KDP には paperback を Amazon 以外の書店にも流通させる Expanded Distribution オプションがある。OFF にしろ。
- ON にすると royalty 60% → 40% に減る
- 個人作家の paperback で外部流通経由の実売はほぼゼロ
- 価格管理の自由度が下がる
Amazon のみで十分だ。
撤退ライン——「もう疲れた」と言ったら止めろ
ここまで書いた地雷は、ほぼ全部 1〜数時間で踏み抜けた。ただし途中で「もう疲れた」と何度か思った。
これは経験則として書いておく。以下に該当したらその日の作業はやめる:
- 同じ問題で 4 時間以上ループしている
- KDP プレビューが赤エラーで具体的原因を返さず「internal error」だけ
- 自分が「もう疲れた」と言葉に出した
- 翌朝見直すと 30 分で解決することがほとんど
ハイブリッド EPUB の internal error 連発は、3 時間粘って all-image に戻したら 30 分で通った。固執は時間を奪う。
教訓
- ハイブリッド EPUB は KDP では通らない。最初から all-image で組む。議論力で通ったのは半ばハック
- paperback は「PDF を作って終わり」ではない。Trim・Bleed・背幅・gutter・column padding・最終行 fs と独自の地雷がある
- Kindle と paperback は別ゲーム。同じワークフロー流用不可
- proof copy は必須。¥1100-1300 で「Publish 後に泣く」リスクを買い切れる
- 撤退ラインを引いておけ。固執は 30 分で解決することを 4 時間に引き伸ばす
ブッダイズム。Vol1 は校正刷り待ち。proof copy が届いて品質を確認した後、publish する。続報は次の記事で。
補遺: 使ったもの
- manginus (自作マンガ制作環境、paperback PDF 出力パス追加)
- Kindle Comic Converter (KCC)
- epubcheck
- Pillow (JPEG 化)
- Python markdown (テキストページレンダリング — 結局 PNG 化)
- KDP セレクト 70% (英訳・未公開作品なので独占要件と衝突しない)