Yyatmita

第10話 大釘を打ったのは、だれか

さっきの、
1699年の日記
坊主の首を、
大釘が貫いてた、
って所
生首に釘を
打つなんて
そんなことする所、
本当にあるの?
日記の言葉は
『大釘に貫いて
ある』です
打ち付けた、
とは書いていません
そうだった。
貫いてある、ね
それと、
これは噂です
日記を書いた本人は、
こう書いています
『共に虚説也
(ともにきょせつなり)』
どれも作り話だ、
ってやつね
分かってる。
『仮に本当だと
するなら』でしょ
見た目では、
どこから来たか
分からなかった
された事の方なら、
どうかなって
首に釘を通す国が、
どこか分かれば
探します
あります
いちばんはっきりした
例は、日本です
……日本?
外国の、変わった
刑だと思ってた
神奈川県の
逗子(ずし)に、
山を切り開いた
古い道があります
その道のわきから、
人の頭の骨が出ました
14世紀の、
女の人の骨です
頭だけで、
体の骨はありません
頭だけ……
その骨に、
四角い孔が四つ
大きさは、5ミリほど
和釘(わくぎ)。
日本の古い釘の跡と
見られています
死んで、まもなく
付いた傷です
頭だけで、釘の跡
……それ、
前に言ってたやつだ
はい。車神社の古墳を
掘れば出るはずの物、
として挙げました
頭だけの骨。
金属が貫いた跡
時代も土地も
別ですが、実際に
出ている例です
調べた人たちは、
さらし首だったと
見ています
昔の絵の巻物に、
さらし首が描かれています
骨の孔の位置が、
その絵の留め方と
合うのです
首に釘を打って、
留めた形です
さらし首
切った首を、
人に見せるやつね
はい。その刑を
『獄門(ごくもん)』
と言います
辞典には、
こうあります
首を留めるのに、
五寸釘(ごすんくぎ)
を使う
五寸は、
15センチほどです
室町時代から、
とされています
15センチ。大釘だ
1699年は、
江戸時代よね
そのころも、
釘で留めてたの?
そこは、
はっきりしません
台に立てた釘に、
首を刺して留めた
そう書く博物館の
解説が、一つあります
でも、辞典は、
江戸時代の台の釘に
触れていません
昔のは、骨で確か
江戸時代のは、
そう書く解説が
ある、まで
はい
じゃあ『首に釘』は、
外国の印じゃないんだ
はい。日本にも、
あるやり方です
『大釘』からは、
外国から来た、
とは言えません
それどころか、
別の読みが出てきます
日本にある
やり方なら
釘を通したのは、
日本の側かもしれません
日本の側?
読みは、
ふたつあります
ひとつ目。
舟が着いたあと、
土地の人か役人が
首を釘で
留めて、さらした
それが
『大釘に貫かれた首』
という噂になった
ふたつ目。釘は、
噂の中で付け足された
舟に首があった、
と聞いた人が
よく知っている
さらし首の姿で、
語り直した
話に、
尾ひれが付いた、
ってこと?
はい。
そういう読みです
どちらにしても
『大釘』は、
日本の側で付いた
ことになります
……あれ。
なんか、変
前に話したよね
釘の刺さった、
知らない国の
人の首なんて
拾った方は
困る、って
触るのも怖いし、
たたりも怖い
日本でさらす
意味は、なくない?
さらし首って、
悪いことをした人を
みんなに
見せるんでしょ
浜に流れ着いた、
だれだか
分からない首よ
だれに、
何を見せるの
たたりをおそれて
祀るなら、分かるけど
……そのとおりです
ひとつ目の読みは、
取り下げます
辞典にも、
こうあります
さらすのは、
裁いて処刑した
罪人の首
世の人に見せるのが、
目的です
罪も裁きも無い首を、
さらす理由がありません
でしょ
それに、
日記を読み直すと
窓にびいどろ。
中に宮女。
そのそばに、首
続けて、
干菓子。書付
どれも、
舟の中にある物の
並びです
日記は、舟が着いた
あとのことを、
書いていません
着いたあとに、
だれかが釘を通した
そう読む足場が、
日記の中に無いのです
日記のとおりなら
最初から、
舟の中でそうなってた
日記のとおり
なら、です
じゃあ、
こういうことね
釘を通したのは、
舟を流した側
こっちの人がしたのは、
弔って、祀ること
はい。前に立てた
仮の読みと、同じです
ただ、
1698年の記録は
首をそのあと
どうしたかを、
書いていません
首も長崎へ送った、
とも読めます
『祀った』も、
仮の読みです
うん。『そうだと
するなら』のまま
ふたつ目の読みは?
噂の中で、釘が
付け足された、の方
そちらは、
消えていません
さらす理由が無くても、
噂に尾ひれは付きます
あとで戻ります
流した側が、
釘を通したのなら
どうして、
首をわざわざ
舟に乗せたのかな
前に、
『見せるための首』
と考えました
見せる相手は、
舟を見つけた人でした
見つけた人に、
だけ?
首は『そのそば』
にあったんでしょ
一緒に乗ってる
女の人に、
ずっと見せてるのかも
そういう読みは、
できます
確かめられるのは、
一つです
そういう罰が、
実際にあるのか
最初は、
物語の中にしか
無かったよね
次が、切った首を、
生きてる人の首から
ぶら下げた話
1688年の、
シャムの話です
そう書く記録もある
ただ、後から出た
噂かもしれない、
という話でした
あれは、
一回きりの話
一回の事件
じゃなくて
ふだんの罰として、
あったのか。
それを探して
ありました
そのころ
シャムへ行った、
フランスの使節がいます
使節は、
国の使いとして
送られた人です
その人が、
本に書いています。
自分で見た、と
処刑された者の首を、
その上司の首に掛ける
3日のあいだ、
掛けたままです
部下のしたことの責めを、
上司に負わせるのです
首を、首に……
切った首を、
生きてる人に
付けておく罰が
習わしとして、
あったんだ
はい。ただ、
掛けられるのは、
上司です
女の人や、
許されない仲の
相手に掛けた、とは
確かめられて
いません
1688年の話も、
女に、では
ありませんでした
近いけど、
同じじゃないのね
流す方は?
殺さないで、
舟で流す刑
前に見たのは、
アイルランドとか、
ヨーロッパの
話だったよね
シャムの古い法に、
ありました
禁じられた関係を
持った者を
筏(いかだ)に
乗せて、流す
町の外へ、とも。
海へ、とも書いてあります
男も、女もです
海へ……!
それ、近いじゃない
……待って。
確かめる
それ、宮廷の
女の人への罰?
いいえ。
親族の間の決まりを
破った者への罰です
本当に、
流してたの?
そこを、調べた
研究者自身が
疑っています
物語の型が、
法の文に入っただけ
かもしれない、と
実際に流された
人の記録は、
挙がっていません
法には、書いてある
やったかどうかは、
分からない
はい
流す方は、
ここまでか
じゃあ、
首を切られた男の方
言い伝えでは、
身分の高い
『皇子』だったよね
シャムの皇子が、
首を切られることって、
あるの?
そこが、合いません
同じ使節の本に、
こうあります
王の血筋の人は、
血を流さない
方法で処刑する
血を流さない?
飢えさせる。
息を詰まらせる。
そういう方法です
じゃあ、
首を切られたのなら
王の血筋じゃない、
ってこと?
この本のとおりなら、
そうなります
1688年に
首を切られたのも、
王の養子でした
『皇子』は、
こっちの人が
そう呼んだだけかも
そう読むことも、
できます
確かめる材料は、
ありません
並べてみる
流す法。
首を人に付ける罰。
密通への重い罰
はい。同じ国に、
別々にあります
みっつが一つに
なった事件
男の首を女に付けて、
舟で流した
それは、
見つかっていません
似た刑罰は、あった
ぴったりの事件は、
見つかってない
……前に
調べたときと、
同じ所に戻ってきた
はい。
『シャムの刑だった』
とは、言えません
それで、釘は?
シャムの方に、
首に釘は、あったの
読んだ範囲には、
出てきません
出てくるのは、
紐で掛ける、だけです
日本にはあって、
シャムには
見つからない
……さっきの、
ふたつ目の読み
生きてるじゃない
はい。残る読みは、
みっつです
ひとつ。
本当に釘だった。
流した側が通した
ただ、読んだ範囲の
シャムの資料に、
釘は出てきません
ふたつ。釘ではない、
別の物だった
たとえば、
首を刺して立てる、
杭や棒
見慣れない物を、
見た人が
『大釘』と呼んだ
それは、ありそう
ただ、
そういう物があった、
という手がかりも
無いのです
みっつ。釘は、
噂の中で付け足された
書いた本人が、
作り話だと
する噂ですから
でも江戸時代の釘は、
解説が一つ、
だったよね
はい。そこは、
確かめきれていません
どれも、
消せないのね
消す材料が、
ありません
まとめるね
首に釘は、
日本にもある
だから、
どこから来たかは
分からない
日本でさらす
理由は、無い
だから、仮に、
釘は流した側。
祀ったのは、
こっち側
シャムに、
近い法や罰はあった
でも釘は無いし、
ぴったりの事件も無い
はい
『大釘』は、
浮いたままです
見た目でも、
された事でも、
分からなかった
首の方は、
だれが何をしたか、
分けて考えた
残ってるのは、
女の人
1698年の記録は
『長崎へ送った』
本当に送ったのなら、
長崎に記録が残るはず
前に、
そう言ってたよね
でも、まだ
見つかってない、って
当てがあるわけ
じゃないけど
長崎の側を、
探してみて
シリーズ一覧へ戻る