第8話 『そうだとするなら』が四つ


さてと。
さっきの書付
さっきの書付
シャムの舟だと
するなら、
何語で書いて
あったんだろう
するなら、
何語で書いて
あったんだろう
そもそも、
何て書いてあったっけ。
もう一回見せて
何て書いてあったっけ。
もう一回見せて
書付(かきつけ)。
1699年の日記に
出てくる、
舟にあった紙です
1699年の日記に
出てくる、
舟にあった紙です
出航の日が、
書いてある
書いてある

そして『100日たてば、
どこで取り上げても
よい』と
どこで取り上げても
よい』と
それ、前に穴だって
言ってたよね
言ってたよね
外国の舟の書付を、
だれが読めたのか
だれが読めたのか
はい。日記には、
その説明がありません
その説明がありません

読めなきゃ、
中身が噂になる
はずがないのに
中身が噂になる
はずがないのに
航海上の公用語
みたいなのが
あったのかな
みたいなのが
あったのかな
ポルトガル語とか。
そういうので
書かれてたのかもね
そういうので
書かれてたのかもね

シャムの舟だと
するなら、で見ます
するなら、で見ます
シャムの宮廷では、
外国の人と
やり取りするとき
外国の人と
やり取りするとき
ポルトガル語が
使われていました
使われていました
ほんとに、
ポルトガル語なんだ
ポルトガル語なんだ

オランダ人でさえ、
シャムの宮廷とは
シャムの宮廷とは
ポルトガル語で
やり取りしていました
やり取りしていました
オランダ人なのに?
はい。間に立つ
言葉が、ポルトガル語
だったのです
言葉が、ポルトガル語
だったのです

じゃあ、宮廷が、
よその国の人に
読ませる物を書くなら
よその国の人に
読ませる物を書くなら
ポルトガル語は、
あり得るのね
あり得るのね
あり得ます。
不自然ではありません
不自然ではありません
ただ、ポルトガル語とは
限りません
限りません
でも、日本で読めなきゃ
意味がないよね
意味がないよね
浜の人は、
読めないでしょ
読めないでしょ

読めたとは、
考えにくいです
考えにくいです
ただ、長崎には、
外国の言葉を
訳す役目の人たちが
いました
外国の言葉を
訳す役目の人たちが
いました
通詞(つうじ)
と言います
と言います
初めのころの
通詞は、もとは、
ポルトガル語の
通詞でした
通詞は、もとは、
ポルトガル語の
通詞でした
オランダ人との
やり取りにも、
ポルトガル語を
使っていました
やり取りにも、
ポルトガル語を
使っていました

でも、それは
昔の話でしょ
昔の話でしょ
1698年にも、
読める人はいたの?
読める人はいたの?
1698年ごろ、
長崎で働いていた
通詞のなかに
長崎で働いていた
通詞のなかに
ポルトガル語の
できる人が、
少なくとも一人、
確かめられます
できる人が、
少なくとも一人、
確かめられます
読める人は、
いたんだ
いたんだ
じゃあ、
こういうこと?
こういうこと?

浜の人は
読めない。
だから、
役所に届ける
読めない。
だから、
役所に届ける
役所が
長崎に回して、
通詞が読む
長崎に回して、
通詞が読む
その中身
だけが、噂に
なって広まった
だけが、噂に
なって広まった
そう考えれば、
説明はつきます
説明はつきます
ただ、そういう記録は、
残っていません
残っていません
……あれ。長崎?

1698年の記録にも、
長崎って出てきたよね
長崎って出てきたよね
『長崎へ送った』。
読んだのが長崎なら、
つながるかも
読んだのが長崎なら、
つながるかも
はい。つながる
かもしれません
かもしれません
ただ、1698年の記録に、
書付は出てきません
書付は出てきません
書付が出てくるのは、
1699年の日記だけです
1699年の日記だけです

長崎は記録、
書付は日記。
書いてある物が、
別なのね
書付は日記。
書いてある物が、
別なのね
いま言えるのは、
ここまでです
ここまでです

もしポルトガル語で
書いてあったなら、
長崎に読める人はいた
書いてあったなら、
長崎に読める人はいた
何語だったか。
本当に書付があったか。
そこは、分かりません
本当に書付があったか。
そこは、分かりません
日記を書いた本人は
『共に虚説也』
としています
『共に虚説也』
としています
どれも作り話だ、
ってやつね
ってやつね

まとめるね
書付は、
読める人がいた
読める人がいた
『だれが
読めたのか』の
穴は、説明がつく
読めたのか』の
穴は、説明がつく
はい。もう一つの
穴は、残っています
穴は、残っています

なぜ、女が
ひとりなのか
ひとりなのか
仮説としては
反証がでてない
くらいはいってるかな
反証がでてない
くらいはいってるかな
反証は、
仮説がまちがいだと
示す証拠のことです
仮説がまちがいだと
示す証拠のことです

はい。今のところ、
決定的な反証は
見つかっていません
決定的な反証は
見つかっていません
……って言ったけど
その『仮説』が
何で出来てるのか、
自分でもあやふや
何で出来てるのか、
自分でもあやふや
一回、全部
並べてみたい
並べてみたい

元は三つだよね
1698年の記録。
1699年の日記。
車神社の言い伝え
1699年の日記。
車神社の言い伝え
はい。先に、
どういう資料かを
言っておきます
どういう資料かを
言っておきます
1698年の記録は、
だれが、いつ書いたか、
分かっていません
だれが、いつ書いたか、
分かっていません
1699年の日記は、
人から聞いた噂。
本人は『共に虚説也』
人から聞いた噂。
本人は『共に虚説也』

車神社は、
土地の言い伝え。
四つの資料を、
一つにまとめます
土地の言い伝え。
四つの資料を、
一つにまとめます
どれも、
そのまま信じていい
物じゃないのね
そのまま信じていい
物じゃないのね
はい。『そう書いた
物がある』まで、です
物がある』まで、です

分かった。
じゃあ、上から
じゃあ、上から
まず、いつ、
どこの話か
どこの話か
1698年の記録は、
1698年の5月。吉田浦
1698年の5月。吉田浦
1699年の日記は、
次の年の6月。
『このごろ』
熱田に、と
次の年の6月。
『このごろ』
熱田に、と

吉田浦は、今の豊橋。
熱田は、名古屋ね
熱田は、名古屋ね
車神社は、
植田(うえた)。
ここも今の豊橋です
植田(うえた)。
ここも今の豊橋です
ただ、舟の話に、
年がありません
年がありません
場所は近いのに、
年が無いのか
年が無いのか

舟は、三つとも、
うつぼ舟だったよね
うつぼ舟だったよね
はい。ウツホ舟、
空穂船(うつぼぶね)、
うつぼ舟
空穂船(うつぼぶね)、
うつぼ舟
同じ言葉です。
中が空洞の舟、
という意味でした
中が空洞の舟、
という意味でした
びいどろの窓が
出てくるのは、
1699年の日記だけです
出てくるのは、
1699年の日記だけです

乗ってたのは、
女の人
女の人
1698年の記録は、
女がひとり。
言葉が通じない
女がひとり。
言葉が通じない
1699年の日記は、
非常に美しい宮女
非常に美しい宮女
車神社は?

貴人です。
資料が言うのは、男
資料が言うのは、男
ここは合わない。
車神社だけ、男
車神社だけ、男
首は、三つとも
あったよね
あったよね

いいえ。
車神社の資料に、
首は出てきません
車神社の資料に、
首は出てきません
あれ?
1698年の記録は、
舟の先に、男の首
舟の先に、男の首
1699年の日記は、
坊主の首。
大釘に貫いてある
坊主の首。
大釘に貫いてある

首があるのは、
この二つだけです
この二つだけです
そうか。
車神社の首は、
私たちが繋げただけだ
車神社の首は、
私たちが繋げただけだ
そのあとは?
女は、長崎へ
送られたんだよね
女は、長崎へ
送られたんだよね

1698年の記録は
『長崎へ送った』
『長崎へ送った』
送ったのが
女だけなのか、
首もなのかは、
書いていません
女だけなのか、
首もなのかは、
書いていません
1699年の日記には、
結末がありません
結末がありません
車神社は、
貴人の霊を祀って、
車大明神
貴人の霊を祀って、
車大明神
そして、
車を埋めた所を、
車塚という
車を埋めた所を、
車塚という

終わり方も、
ばらばら
ばらばら
じゃあ、最後。
舟は、どこから来たの
舟は、どこから来たの
三つとも、
書いていません
書いていません

え。どれにも無いの
あれだけ、
追いかけたのに
追いかけたのに

はい。外国の記録は、
調べました
調べました
でも、元の三つには、
一言もありません
一言もありません
こうやって並べると、
足りない所が見える
足りない所が見える
一つ目は、いまの。
舟が、どこから来たか
舟が、どこから来たか

どの資料にも、
ありません
ありません
ズバリ当てはまる事件も、
見つかっていません
見つかっていません
二つ目。
1698年の記録と、
1699年の日記
1698年の記録と、
1699年の日記
これ、
同じ舟の話なの?
同じ舟の話なの?
決まっていません。
場所が違います。
一年、違います
場所が違います。
一年、違います

三つ目。男の首が、
そのあとどうなったか
そのあとどうなったか
どの資料にも、
ありません
ありません
四つ目。
1698年の舟と、
車神社の貴人
1698年の舟と、
車神社の貴人

結ぶ史料は、
一本もありません
一本もありません
重なるのは
『うつぼ舟』という
言葉と、土地だけです
『うつぼ舟』という
言葉と、土地だけです
一つ一つの
記録は、あります
記録は、あります
ただ、それが同じ
出来事の記録だという
証拠が、ありません
出来事の記録だという
証拠が、ありません
まとめるね
三つの資料は、
まだ一本に
繋がっていない
まだ一本に
繋がっていない
足りない所は、四つ

はい

じゃあ、その四つを
『そうだとするなら』
で繋いでみる
『そうだとするなら』
で繋いでみる
前にも、噂を『仮に
本当だとするなら』
で考えたよね
本当だとするなら』
で考えたよね
あれと同じやり方
分かりました。
継ぎ目が来たら、
言います
継ぎ目が来たら、
言います

どこか外国で、
身分のある女が、
罪を問われた
身分のある女が、
罪を問われた
殺されずに、
舟で流された。
男の首と一緒に
舟で流された。
男の首と一緒に
そこは、
そうだとするなら、です
そうだとするなら、です
どこの国かは、
分かっていません
分かっていません
ただ、女を舟で流す刑は、
実際にありました
実際にありました
宮廷で、
王族に重い罰が下った
例も、ありました
王族に重い罰が下った
例も、ありました

舟は、びいどろの
窓のある舟。
三河の吉田浦に着いた
窓のある舟。
三河の吉田浦に着いた
熱田の噂は、
同じ舟の話
同じ舟の話
そこも、
そうだとするなら、です
そうだとするなら、です
びいどろの窓も書付も、
出てくるのは
噂の側だけです
出てくるのは
噂の側だけです
女は、長崎へ
送られた
送られた

『長崎へ送った』は、
記録にあります
記録にあります
男の首は、
土地に残った
土地に残った
だれも触りたくないから、
車に載せて、
車ごと埋めた
車に載せて、
車ごと埋めた
そこも、
そうだとするなら、です
そうだとするなら、です

記録は、
首が土地に残った、
とは書いていません
首が土地に残った、
とは書いていません
首を長崎へ
送った、とも
書いていません
送った、とも
書いていません
それを弔(とむら)って、
神にした
神にした
言い伝えの貴人は、
その首の主
その首の主
そこも、です

結ぶ史料は、
ありません
ありません
ただ、そう読めば、
貴人が男であることの
説明はつきます
貴人が男であることの
説明はつきます
……繋がった
でも『そうだとするなら』
が、四つ
が、四つ
はい。四つとも、
まだ確かめられていません
まだ確かめられていません
そして、四つとも、
まだ否定されていません
まだ否定されていません

どっちでもない、か
否定されてないって、
まだ調べてない
だけじゃないの
まだ調べてない
だけじゃないの
調べた範囲
では、です
では、です
これから何かが出て、
ひっくり返ることは、
あり得ます
ひっくり返ることは、
あり得ます
じゃあ、
何が出たら、この話は
おしまいになるの
何が出たら、この話は
おしまいになるの

捨てることになる
物を、挙げます
物を、挙げます
1698年の記事が、
もっと古い話を、
そっくり写した物だった
もっと古い話を、
そっくり写した物だった
女と首と舟の話が、
それより前の日本に、
もう幾つもあった
それより前の日本に、
もう幾つもあった
日記のびいどろの窓や
首が、前からある話から
取られていた
首が、前からある話から
取られていた
『うつぼ舟で貴人が
来た』が、1698年より
前の資料に出る
来た』が、1698年より
前の資料に出る

どれも『前からあった』
ってことね
ってことね
はい。前から
あった話なら
あった話なら
1698年に何かが起きた、
とは言えなくなります
とは言えなくなります
じゃあ、
強くなるのは?
強くなるのは?

外国の記録に、
女を男の首と一緒に
舟で流した事件
女を男の首と一緒に
舟で流した事件
長崎の側の記録
書付を通詞に回した、
という役所の記録
という役所の記録
そして、
1968年の調査の
報告書です
1968年の調査の
報告書です
車神社の古墳を
調べた、あの報告書ね
調べた、あの報告書ね

はい。まだ
開いていません
開いていません
古墳だもんね。掘れば、
何か出るかもしれない
何か出るかもしれない
骨がでてきて
DNA鑑定できればいいね
DNA鑑定できればいいね

骨が出れば、
調べられることが、
三つあります
調べられることが、
三つあります
一つ。
いつごろの人か
いつごろの人か
古墳の時代の骨か、
江戸時代の骨かは、
分かります
江戸時代の骨かは、
分かります
二つ。よその土地から
来た人かどうかの、
手がかり
来た人かどうかの、
手がかり
三つ。DNAが
残っていれば、
どの地域の
人びとに近いか
残っていれば、
どの地域の
人びとに近いか

だれなのか、
までは?
までは?
そこまでは、
分かりません。
比べる相手が、
いないからです
分かりません。
比べる相手が、
いないからです
逆に、古墳の時代の
骨だったら
骨だったら
1698年の男の首では、
ありません
ありません

古墳の時代に、
埋められた人です
埋められた人です
どっちに転ぶかも、
掘れば分かるのね
掘れば分かるのね
……でも、掘れない
まとめるね

書付は、
読める人がいた
読める人がいた
三つの資料は、
まだ一本に
繋がっていない
まだ一本に
繋がっていない
『そうだとするなら』
で繋いだのが、
いまの仮説
で繋いだのが、
いまの仮説
反証は出ていない。
何が出たら
捨てるかは、言える
何が出たら
捨てるかは、言える

はい
掘れないなら、
いま手元で
見られる物から
いま手元で
見られる物から
足りない所の一つ目。
どこから来たか
どこから来たか

……最初に見た、
1803年の話の絵
1803年の話の絵
105年あとの話だけど、
元は昔の舟の話
かもしれないんだよね
元は昔の舟の話
かもしれないんだよね
あの顔。
西洋人というより、
東南アジアの人に
見えるんだけど
西洋人というより、
東南アジアの人に
見えるんだけど

