Yyatmita

第3話 うつほ舟は、人を舟で流す話

車の言葉のほかに気
になってるのは
うつろ、うつほ、
うつぼという微妙に
ちがう言葉
はい。そこはかなり
重要です
ただ、調べると意外
な結論になります
まず、これまでに出
た形です
ニュースの、
1803年の常陸の
舟は『うつろ舟』
1698年の三河の
記録は『ウツホ舟』
車神社の言い伝えは
『うつぼ舟』でした
ほんとだ。
三つとも違う
同じ舟なの?
別の舟なの?
そもそも、この舟は
何なのか
言葉を並べるところ
から始めます
言葉の意味と古い例は、
『日本国語大辞典』
に拠ります
舟を指す形を、古い
順に並べます
13世紀前半の
『平家物語』に
『うつほ舟』
室町の終わりごろの
語り物『大織冠
(たいしょかん)』に
『うつぼ舟』
1687年の本には
『うつろ』
1803年の事件は、
資料ごとに書き方
が揺れます
順番に入れ替わった
んじゃなくて、
入り混じってる
辞書は、これらを
同じ意味として
扱っています
別々の種類の舟を
指す言葉では
ありません
同じ『中が空洞に
なったもの』という
言葉が、時代ととも
に揺れたものです
同じ言葉なんだ
『ほ』と、
濁点の付いた『ぼ』の
違いは、手がかり
として弱いです
昔は濁点の決まりが
無く、『うつほ』と
書いて『うつぼ』と
読めたからです
『うつろ』は字その
ものが違うので、
多少は意味があります
なので、1698年
の『ウツホ舟』と
1803年の
『うつろ舟』を
別の種類の舟だ、と
は言えません
1698年の記録が、
古い形を使っている、
と見る方が自然です
じゃあ、もとは何の
言葉なの
いちばん古い基本の
形は『うつほ』です
中がからになって
いるもの。木や岩の
空洞のことです
『うつほ舟』は、
大木をくり抜いて
作った舟。丸木舟です
UFOでも漂流
カプセルでも
ありません
丸木舟なんだ
『うつぼ』は、矢を
入れて背負う筒
のことです
『うつほ』の読み方
が忘れられて、これ
と混ざりました
『うつろ』は、鎌倉
時代ごろから同じ
意味で使われ
始めた形です
そして『空舟』と
いう漢字も罠です
『空っぽの舟』
ではありません
『中をくり抜いて、
内部が空洞になって
いる舟』です
空っぽの舟だと思ってた
ここから一つ、
面白い仮説が出てき
ます。これは推測です
もとは丸木舟という、
船の言葉でした
それが物語の中で、
『人を中に入れて
流すもの』に変わる
実際に、さっきの
『大織冠』に例があります
人をうつほ舟に
『作りこめ』て、海へ流す
中に閉じ込めて、と
いう意味です
名前よりも大事なのは
その資料で『うつほ舟』
が何を指しているか、です
三つは同じ言葉。
空っぽの舟じゃなく
て、中が空洞の舟
人を中に入れて、
流す器
はい
では視点をかえて
パイレーツ・オブ・
カリビアンかなにかで
人を樽にいれて流す
刑とか避難とかの
描写なかったっけ
その記憶、たぶん
複数の『海賊もの』
の場面が混ざっています
樽に隠れる場面が
あるのは、遊園地の
アトラクションの方です
樽ごと海を漂うのは、
マンガの『ONE PIECE』
の第1話
映画の本編に、人を
樽に封じて流す刑は
見当たりません
混ざってたか
実はもっと気になるの
は『ガリヴァー旅行記』です
スウィフトという
作家が、1726年
に出した物語です
ガリヴァーは木の箱
に入ったまま海に落ち
通りかかった船に
助けられます
すると船長が、こう
疑います
『何か重大な犯罪を
犯して』
『君は王命によって、
その箱に入れられて』
『海へ流されたので
はないか』
刑で、流された?
さらに船長は、こう
も言います
よその国では、重い
罪人を、食料もなく
水の漏る船に乗せて
海へ追い出すことが
ある、と
人を入れ物や小舟に
入れて、海へ流す
その発想は、日本
だけのものでも、
UFO的でも
ありません
ガリヴァーから日本
へ伝わった、という
話ではありません
そうね
ガリバー旅行記の
記述は近しい風習が
読み取れるね
うつろ舟の話に
とらわれずに世界中
で似たモチーフを
調べてみて
モチーフ、つまり
『話の型』ですね
調べてみると、これ
は『うつろ舟だけの
奇談』どころでは
ありません
民俗学者のスティス・
トンプソンが作った
索引があります
世界の昔話に出て
くる『話の型』を
集めて、番号を付け
たものです
そこに『舟に入れて
流す』という項目
があります
人、ふつうは女性
か子供を
舟、箱、籠、樽に
入れて、漂流さ
せる話です
そのままじゃない
集められた地域は、
アイルランドから
インド、日本、北米
の先住民まで
つまり、われわれが
追っていたものには
既に民俗学上の名前
があったわけです
名前、あったんだ
人を入れ物に入れて
流す話。世界中
にあるのね
はい
似た例を、画面に
並べます
いちばん古い方は、
4000年以上前の
王、サルゴン
赤子のとき、葦の籠
で川へ流され、拾わ
れて王になります
ギリシア神話のダナエーと
ペルセウスは、母と子で
箱に閉じ込められ
海へ流されて、島で
漁師に助けられます
日本には?
日本にも非常に古い
例があります。
『古事記』のヒルコです
最初の子を、葦の船
に入れて流し去る
韓国の神話の王女、
バリ公主(こうしゅ)
もそうです
七番目の娘として
生まれ、玉の箱で川
へ流され、老夫婦
に拾われる
籠、箱、樽、革袋。
入れ物がばらばら
そうです。ポイント
は『舟』では
ありません
共通するのは、人を
日常の社会から
切り離す
最小限の閉じた空間
を、水に置くことです
そして、単なる神話
ではなく『実際の
刑罰』にもなります
697年の、
アイルランドの法です
女性が殺人や放火
などの重い罪を
犯した場合
櫂が一本だけの舟に
乗せて、沖へ引いて
いき、風に任せる
人が最後まで裁くの
ではなく、『その
判断は神に委ねる』
殺さないで、
流すんだ
はい。生きるか死ぬかは、
神か海に任せる
だから
『ガリヴァー旅行記』
の船長の言葉は
まったくの空想とは
言い切れません
船長、でたらめを
言ってたわけじゃ
ないんだ
海の向こうから、
正体の分からない
だれかが来る。そう
いう型もあります
車神社の、貴人が海
から来る話は、これ
と比べられます
話だけじゃなくて、
本当に人を舟で流してた
流した側が、いるんだ
はい
最初は、円盤のよう
な奇妙な舟に目
が行きます
でも世界と比べた
あとだと、古い
骨組みは別の所
にあります
正体の分からない人
が、閉じた小さな器
で、水の上を流れてくる
UFOのような形は、
後ろへ下がります
『水に流された異人』
の方が、ずっと古く
て、世界中にあります
1698年の
三河の話にあるのは、
ウツホ舟、女、
言葉が通じない
それだけの簡素な話が、
この型によく収まります
いったん桃太郎も
ここにはいるか
はい。桃太郎は、
素直にこの仲間に
入ります
人そのものを舟に
入れて流すのではなく
人を入れた器、桃が、
川を流れて着く形です
『世界大百科事典』
の『桃太郎』の項も
流れてくる桃から
生まれる主人公は
『うつぼ舟による
漂着伝承』と深い
関係をもつ、と
書いています
桃太郎は朝鮮半島の
話に近いね
そうです。さっき
出したバリ公主は、
桃太郎と近いです
どちらも器に入って
川を流れ、老夫婦に
拾われます
言えるのは、そこ
までです
『桃太郎は朝鮮半島
から伝わった』と
断定するのは、
まだ無理です
似た話が世界中に
あっても、一つの話
が広まったとは
限りません
個人的には、朝鮮半島
だけでなく、もっと
広く見ると面白い
と思います
中国の東北、済州島、
九州の北、日本海の沿岸
帯のように並んで
いれば、話の伝わっ
た道が見えるかも
しれません——
いやうつろ舟の話に
もどろう
三河国のはなしが事実とすると、
漂着したのは外国人の女性だよね
長崎のはなしも
でてるし
外国人の女性が
ひとりで漂着する
ストーリーとすると
そうです。
事実だったと仮定すると、
かなり特徴的です
女がひとり。
専用らしい舟。
食料。そして、
掲げられた男の首
事故ではなく、
だれかが準備して
送り出した。そう
考えたくなります
……だれが?
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